2015年07月15日

埼玉戦士の合言葉

「うまい うますぎる」
「……」
「キサマ、千葉県民だな!」
「まて……っ!」

 問答無用の血しぶき。

 千葉県民と思われた死体(実は神奈川県民)を洞穴に捨てに行った後、埼玉戦士たちは休息を取ろうと決めた。
 さつまいもを練り込んだ川越のお菓子と、あたたかい狭山茶が配られ、アジトは甘い香りに包まれる。

 十万石まんじゅうを食べたことのある埼玉戦士は、意外と少ない。

※埼玉県民はテレビ埼玉で流される、
「うまい うますぎる 十万石まんじゅう」
 というCMを見て育ちます。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:23| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

黄金の果実

 知的障害があるからよそでは働けないという。
 僕が困った時に最初に振り向くのはいつも彼女で、おかしいのは知的という言葉の定義の方だと気付く。

 南国の自然に憧れて島に来たものの、パイナップルは苦手だと思っていた。
 収穫の手伝いの合間に断り切れず一かけ口に入れる。

 それは都会で食べるパイナップルとは全く違っていた。
 酸味も筋もなく、桃やいちごより味が濃くて、太陽の夢を見せながら舌の上で溶けてゆく。

 畑で熟れたパイナップルはみなこの味だと、彼女の家族は淡々と当たり前のように口に運ぶ。

 鋭い彼女は僕の下心を知っていただろう。
 別れの日、親愛の情を示す振りをしてぎゅっと抱きしめた。

 飛行機で二時間。
 東京は砂の城に見えた。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 10:07| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

2015年07月14日

うどん県の恋人

 単身赴任でね
 ここのうどんは美味しいけど
 家庭の味が恋しいよ

 高松ではそんな男 珍しくもないのに
 肉じゃがとみそ汁を作ってあげて
 荒々しい飢えた抱き方に溺れたのは 私の罪

 デートではなく
 地元の人間の親切として
 小豆島を案内する

 一緒にオリーブ畑で働かない?
 会社なんて辞めて
 奥さんとも別れて

 冗談に出来そうにないから
 口には出さない

 何も失わずに東京へ帰ってゆく男の背中

 対等に遊んだだけだと
 私だって何も失わなかったのだと

 必死で自分をだましながら
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:41| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

三浦BL〜マグロとキャベツとその後に〜

 同棲するなら横浜が良かったのに、大樹は三浦から出たくないと言う。

 仕方ないので僕たちは日帰りデートを繰り返していた。
 大樹は待ち合わせ場所に「三浦大根」と書かれたTシャツを着て来たりする。

 三浦は大根とマグロが有名だけど、僕が好きなのはキャベツだ。
 刺身定食に付いてくるコールスローがことのほか美味しい。

「キスするために城ヶ島へ行くか!」

 大樹は照れ隠しで大声で言い、自分で赤くなっている。
 岩場の多い城ヶ島の海岸なら、二人きりになれる瞬間があるかもしれない。
 そうしたら僕は。

「大樹と一緒に三浦に住みたい」

 職場から遠くなっちゃうけど。
 白旗を揚げるように変なTシャツの裾をつかむ。

 愛は全然平等じゃないんだ。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:18| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

2015年07月13日

SS企画《俺のグルメFESTIVAL》

 下の二つの記事は「SS企画《俺のグルメFESTIVAL》」に参加するために書いた創作小説です。
 SSはショートストーリーのことで、今回は300字以内というルール。

 300字なんて何も書けないんじゃないかと思ったけど、意外と長い。
 窮屈さを感じずに物語を展開させられる。
 自分の中にある新しい感覚を発見した気持ち。
 楽しかった♪
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:44| 執筆 | 更新情報をチェックする

もんじゃ焼きの神が降臨する

 そこにいたのは教授と大学院生。
 ゼミの飲み会でもんじゃ焼き屋に行ったものの、誰も正しいもんじゃを知らなかった。

「もんじゃはいつ固形化するのでしょうか」
「は?」

 事の顛末を聞き、私は呆れる。
「インテリが雁首そろえてもんじゃが固まるの待ってたわけ?」
 大学院生の男の子は神妙にうなずく。

「もんじゃはトロトロのまま食べるんだよ!
 わざと生地を薄くひいて、カリカリになったのを食べたりもするね」
 美味しさをイメージ出来ないのか、彼は首を傾げる。

「今度一緒にもんじゃ焼き屋に行こう。目の前で見せてあげるから」
「はい!」

 ニコッと笑う顔を見て、お堅い彼をデートに誘えたことを、もんじゃの神に感謝する。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:10| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

僕たちは五家宝(ごかぼ)を食べながら、永遠にファミコンをやるつもりでいた

「食べたことないな」

 転校生のタツヤくんは五家宝を知らなかった。
 やわらかいおこしにきな粉をまぶしたお菓子で、ほんのり甘い。
 これを二つ口に頬張り、タツヤくんはスーパーマリオを始めた。

 横顔を見ると、唇がきな粉まみれだった。
 ペロッと舐めてしまいたいと思った。
 僕はひどく幼くて、きな粉が好きなのかタツヤくんが好きなのか、区別がついていなかった。

「うわーっ!」
 マリオが画面の外に落ちてゆく。
 タツヤくんはTシャツの袖で口をこすった。

「周ちゃんの番!」
「うん」

 僕たちは五家宝を食べながら、永遠にファミコンをやるつもりでいた。
 僕がタツヤくんを愛し、タツヤくんが女の子を愛する日が来るなんて、想像もせずに。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 15:33| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

2015年07月12日

反抗の意味

 ロックやパンクはかつて、反抗を表明するための音楽だった。
 けれども一般に普及してしまった現在では、ただの音楽ジャンル名だ。
 それらを演奏しても、別に反抗にはならない。

 小説や漫画の性描写も、かつては反抗を表していたのかもしれない。
 今では性描写がありふれたものになり、登場人物たちが性的な行為を行っている、ということを示すだけで、それ以上の意味は持たない。

 かつて反抗の表現とされていたものをやれば、今でも反抗の行為になると信じている人が時々いて、驚く。
 反抗というのは相対的なものなので(既存のものがまずあり、それに反抗するものが現れ、それがまた既存のものになってゆく)反抗し続けたければ、永遠に新しいものに乗り換え続けなければいけない。
 
 反抗のために何かをしても、あっという間に反抗の意味が消えてしまう訳で、けっこう虚しい。
 私はもっと普遍的なものが欲しい。

 もちろん反抗の意味を持たなくなったロックやパンクや性描写でも、それ自体に魅力があれば何の問題もない。
 むしろそこからが本当の始まりだと思う。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:55| 考え | 更新情報をチェックする

村上春樹 編・訳「セロニアス・モンクのいた風景」感想

 1940年〜1970年頃にジャズ・ピアニストとして活躍した、セロニアス・モンクについての文章を集めた本です。
 エッセイ集のように楽しく読めます。

 セロニアス・モンクの音楽は、不協和音やズレたテンポを多用しており、奇妙なのだけど暗くなくて、ワクワクする。
 こんな不思議な響きを作り出したのはいったいどんな人だったのか。
 彼と直接関わりのあったミュージシャンやプロデューサーなどの証言により、セロニアス・モンクがどのように特殊だったかが少しずつ分かってくる。

 まず、具体的な病名は分からないけれど、何らかの精神的な障害を持っていたと思う。
 本の中には統合失調症、Wikipediaの彼の項には躁鬱病という単語があるが、ADHD(注意欠陥・多動性障害)が一番近いんじゃないか。
 ちょっとでも興味を失うと集中出来なくなって、席を立ちウロウロし始める。
 演奏中でも急にステージを降りたり、演奏をやめてピアノの前で動かなくなったりする。

 他人や世の中に合わせる、ということが一切出来ない。
 反抗心でそうしているのではなく、能力としてやれない。
 周囲の人たちも大変だったろうけれど、セロニアス・モンク自身、かなりつらかったと思う。

 彼にとって生きることは、突然ルールの分からないスポーツ競技の選手にさせられて、
「さあ、戦え!」
 と急き立てられるような感覚だったのではないか。
 こういう人が絶望して自殺してしまうことはよくある。

 セロニアス・モンクは違った。
 周囲の女たちが全力で彼を守るのだ。
 幼馴染みでそのまま奥さんになったネリーと、パトロンのニカを筆頭に、この本の中には彼を支え、彼の代わりに戦う女が沢山出てくる。

 男性としての魅力を感じてではなく、全員母性全開。
「この子をどうにか生き延びさせないと、世界は大切なものを失ってしまう」
 という使命感に駆り立てられているのが強く伝わってくる。

 そのおかげで、セロニアス・モンクは60代まで生きた。
 録音も数多く残し、現在でも簡単にCDで聴くことが出来る。
「モンクも、女の人たちも、みんなよく頑張ったねぇ」
 と握手してまわりたいくらいだ。

 不可解な世界で、女たちのあふれる愛の海に漂っていたことを考えると、セロニアス・モンクの音楽はとても自然なものに感じられる。
 あのような形でしか表現し得なかった苦しみと愛情。
 世界への不平と讃美。

 Melodious Thunk[旋律の美しい役立たず――セロニアス・モンクのもじり]

 大きな子どもの音楽を、世界中の大人の中の子どもが聴いている。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 02:01| 読書 | 更新情報をチェックする

2015年07月11日

最近iPhoneで撮った写真

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 6月の青空。

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 実家の紫陽花。

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 実家の近所のアザミ。

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 池袋のヨーダ。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 00:39| 写真遊び | 更新情報をチェックする