
機械人間「オルタ(Alter)」
登壇者は、人間そっくりのアンドロイド(マツコロイド等)の製作者として有名な石黒浩。
複雑系と人工生命を研究する池上高志。
アンドロイドを制御するシステムを開発している小川浩平。
生物の個体と集団の関係について研究する土井樹。
何しろ報道関係者が多い!!
会場に入ると、後ろの方に大量のカメラマンやインタビュアーに囲まれる石黒浩が。
「石黒教授だよ! 本物の石黒教授だよ!! キャー! キャー!」
と通路で飛び跳ねながら叫んで、他の人の通行の邪魔になる私。
研究者としてというより、人形師としての石黒教授のファンなのです。
著作も読んだことがあるし、ずっと憧れていたから、ナマの石黒が見られて本当に嬉しかった。
いやまあ、石黒浩のアンドロイドでも構わないのだけど(今回は来てませんでした)
オルタのこれまでのアンドロイドとの違いは、複雑さを表現しているところ。
外部の状況に反応し、次の瞬間に何をするか誰も予測することは出来ない(そのように作られている)
小川さんによると、人間の動きの通りにしっかり制御したロボットよりも、ランダムに動かしたロボットの方が生命らしく見えるという。
それはおそらくランダムな動きが、人の想像を引き起こすからではないか、と。
石黒教授は、人間は何事も自分の都合良く想像するので、ランダムな動きと想像が偶然ピタッと合った時、そこに意味を見出すと言う。
オルタは石黒研究室と池上研究室との共同研究で生まれた。
この池上高志という人が、科学者というより前衛芸術家や哲学者のような問題意識を持っていて、なかなかエキセントリックだった。
一番印象的だったのは、科学というのは基本的にそぎ落としてゆくもので、全部入りのものは誰もやっていない、という発言。
私も単純化だけでは見つけられない真実が多くあるように感じ、「全部入りシミュレーション」として小説を書いているところがある。
しかし理系の研究として、それをやるのは難しいことだろうと思う。
池上教授は生命に見えない生命らしいものを追求しており、石黒教授の研究に対して、
「あまりにも生命に似てるやんけ!」
と感じていたとのこと。
それに対して石黒教授は、
「(池上さんのような研究をしていると)研究費が出ないから」
分かりやすい成果を出さないと予算はつかない。
それゆえ人間そっくりのアンドロイドの方に進んだのであって、もともとは池上教授のような抽象的な研究もしたかったとのこと。
象牙の塔は想像以上に世知辛い場所ですよね……
オルタの外見はニュートラルで、見た人が想像で補い、一人一人の中に勝手なオルタ像が出来る。
トークへ行く前に、
「曖昧な部分があるために、無限通りに読める綾野剛の表情が素晴らしい」
とTwitterで騒いでいたのだけど、何だよ同じ話じゃん!
結局、研究の世界も芸能界も、記号化しやすい明白なものだけでは足りなくなってきている、ということなのかもしれない。
実際に見たオルタは、暗闇の中に浮き上がる滑らかで素早い手や顔の動きが、非常に幻想的だった。
私は「女性が舞台の上で今日あったことを説明している一人芝居」のように感じた。
Dちゃんは「認知症の老人が過去の話をしている」ように見えるという。
コミュニケーションしているという感じは受けず、一方的である点は一緒だ。
研究内容は違えど、登壇者の四人はみな「生命らしさ」にこだわっていた。
私は「生きているかどうか」より「美しいかどうか」の方が大事なので、
「生命じゃなくちゃいけないんですか?」
と不思議に思った。
オルタは美しかった。
これまでに見たことのない種類の美しさだった。
私にとってはそれだけで十分だ。