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この記事の続き)
夕飯を食べて日帰りにすると家に着くのが深夜になるので、ホテルに泊まることにした。
二日目は何をしようかという話になり、私は、
「比叡山に行きたい」
と希望を述べた。
「焼き討ち体験がしたいの?」
「いや…… Dちゃんにとっては比叡山と言えば焼き討ちなんだね」
「他に何が出来るの?」
「よく知らない……」
うちの実家の宗派が天台宗なので、その総本山である比叡山延暦寺を一度見てみたかった。
「山」だから京都中心部の観光地より自然豊かなのではないかという期待もあった。
和久傳を出てから近くの本屋へ寄ると、さすがに京都のガイドブックが充実している。
しかしどれを見ても比叡山の情報は少ない。
今回初めて知ったが比叡山は京都府と滋賀県の県境にあり、延暦寺の住所は滋賀県なのだ。
それではと滋賀県の旅行ガイドを探したが見つからない。
ネット検索をしてみるが、この情報も分かりにくい。
比叡山に限らず観光地のサイトはどこも、地元の交通の説明が下手だ。
そこに住んでいる人たちは使い慣れていて、初めて来る人が何に困るか想像出来ないのだろう。
「冬の間は京都側のロープウェイが運休するから、琵琶湖の方に回らないといけないみたいだよ」
とDちゃん。
「時間かかるのかな」
「京都駅から一時間くらいらしい」
Dちゃんは比叡山に全く興味がなく、とにかく美味しい昼ごはんが食べたいと言う。
「京都市内ならともかく、山の方に美味しいお店なんてあるかなぁ」
「朽木旭屋(くつきあさひや)の鯖ずしを買おう」
京都に美味しい寿司屋はないか調べたところ、グルメ情報サイトで評価が高かったのがこの店だという。
伊勢丹の地下に入っているというので、下見することにした。
朽木旭屋はテイクアウト専門の店だ。
筒状の容れ物に入った鯖ずしが並んでいる。
「これは切れているんですか?」
「はい」
と店員さん。見ると値札に4切、8切などと書いてある。
「これを買ってお弁当にして比叡山で食べれば良いね。賞味期限はいつまでですか?」
「明日です」
「じゃあ今のうちに買っておこうか」
「明日行く前に買えば」
「伊勢丹が開店した後で京都駅を出発したら遅くなっちゃうんじゃない?」
比叡山に向かう電車の乗り継ぎが悪かったら、と考えると不安だった。
「大丈夫だよ」
「明日の開店は何時ですか?」
「10時です」
「10時か〜」
「ホテルで出かける準備してたらすぐそのくらいの時間になっちゃうよ」
店の前でさんざん大騒ぎして、その日は買わずにそのままホテルに向かった。

↑ニンジャが出てきそう
ツインの部屋だったのでDちゃんにくっついて眠ることが出来ず辛かった(ダブルにして欲しかった……)
次の日の朝、身じたくを済ませて朝食を食べ、ちょこっと散歩をしたら、

↑東本願寺の入り口
10時過ぎてた……
Dちゃんの言う通りだった。
散歩の途中で見た、京都駅前のバス乗り場が激混みで驚いた。
長い行列が出来ていて、特に清水寺行きは、
「最後尾の人たちは、一体いつバスに乗れるのだろう」
と心配になるくらいだった。
清水の舞台から飛び下りる覚悟がないと、清水寺には行けないんだな……
ホテルをチェックアウトし、朽木旭屋へ行くと、店員さんは私たちを見て、
「来てくださったんですね。ありがとうございます!」
とにっこり。覚えられてる……
「普通のとあぶりを買って食べ比べたい」
とDちゃんが言うので、それぞれ4切ずつ購入。
お箸ももらった。
11時過ぎ、JR湖西線に乗った。
(この時点では分かっていなかったが、時間のかかるルートを選んでしまったので、電車好きの人以外はマネしないように)
大津京駅で降りるはずが山科駅で降りてしまい、京津線の京阪山科駅に乗り換えた。
この線は途中から路面電車になるのが面白い。
浜大津駅で石山坂本線に乗り換え。これも一部路面電車だった。
乗った電車が近江神宮前駅止まりだったため、そこで下車。

↑ヒマだったので反対側の電車を撮影
10分ほど待ち、坂本駅行きに乗車。
この路線には「穴太(あのお)」という駅があり、
「あのお〜 あのお〜」
というアナウンスに呼ばれているような気がして、楽しかった。
坂本駅から10分ほど歩き、比叡山のケーブルカー乗り場である「ケーブル坂本駅」に到着。

着いてから気付く。
JR湖西線で比叡山坂本駅まで行き、そこからバスに乗るのが一番近かったのではないか……?
まあ遠回りも旅のうち、だ。
比叡山山頂に向かう坂本ケーブル、「坂本ですが?」のあの人
坂本ですが? 1 (ビームコミックス) - が経営しているイメージが離れない。
新しくて乗りやすい普通のケーブルカーだった。
一号車に「縁号」二号車に「福号」と名前が付いているのが寺らしさを感じさせる。
終点のケーブル延暦寺駅に着いたのは12時半過ぎ。
京都駅からだいたい1時間半だ。
(最短ルートなら1時間かからないはず)

駅の横が展望台になっており、比叡山の緑と琵琶湖を眺めることが出来る。
美しく清々しい。
ベンチもあるのでこの景色を見ながら鯖ずしを食べることにした。

まずはあぶりではない、普通のタイプ。
サバが分厚く、とろりとクリーミー。
魚とこんぶのうまみがかけ算になって、どんどん口に運んでしまう。
一応醤油も付いているのだが、サバとこんぶと酢飯だけで味が完成しているので、かける必要を感じない。
「うま〜!」
あっという間に食べ終わり、Dちゃんがあぶりの方の包装を解く。
「まだ! 待て!」
「何でそんな犬を叱るような言い方するの」
「のりが犬みたいに鯖ずしを突つこうとするからだよ」
「え〜」
無自覚だったがそう見えたらしい。
そうなっても仕方ないほど、もっと食べたくてたまらなかった。
あぶりの方はこんぶで巻かれていない。
クリーミーさに焼き魚の香ばしさが加わって、こちらも甲乙つけがたい絶品。
「うまま〜!!」
朽木旭屋の鯖ずしはかつて味わったことがないほどサバの品質が良く、酢飯も魚に合う絶妙な酸っぱさだ。
全体の味のバランスが素晴らしい。
「私、鯖ずしって食べたことなかったんだけど、最初に最高のものを食べちゃった気がする。これより美味しい鯖ずしに出会うのは難しいんじゃないかな」
今後私は朽木旭屋以外の鯖ずしの文句を言い続けることになるだろう。
この予言から逃れることは出来ない……
(
「比叡山延暦寺編」に続く)