2011年10月29日

パオロ・バチガルピ「ねじまき少女」

 バンコクが舞台の近未来SFです。
 石油が枯渇し、石炭も政府や軍しか使用出来ず、一般の人々は遺伝子組換え生物から取り出したエネルギー(巨大化した象の力など)を利用して暮らしている。

 登場人物は多いし、この世界だけに通用する概念が説明なしにバンバン出てくるし、けっこうとっつきにくい。
 保守的な環境省と急進的な通産省の対立が話の軸になるのですが、環境省の人たちは急進派の市民から賄賂をもらっているし、スパイも入り込んでいるしで誰と誰が敵なのかはっきりしない。
 とにかくゴチャゴチャして分かりにくい。

 と書くと悪口みたいですね。
 この本の魅力は、この「ゴチャゴチャ感」なのです。
 不変の善や悪など存在せず、全てはうつろう。
 
 「ねじまき少女」というのは日本製のアンドロイド。
 ご主人様に捨てられて、娼館の酷いショーに出たりしている。
 彼女の悲しみが、暴動のきっかけを作る。

 悲惨な状況の中で、どの登場人物も必死にもがくように生きていて、そのみっともなさが希望を感じさせます。
 物語最後の、遺伝子組換えに何の抵抗も感じないマッドサイエンティストのセリフには、ゾッとする。
 新生物による病気の蔓延。かつていた動物や植物の絶滅。
 今年食べられた柿やブリやさつまいもを、来年も無事食べられる保証なんて何もないんだよね……

 Amazonの評価が思いのほか低くて驚きましたが、私にはリアルで面白い小説でした。
 上下巻でつながっている表紙も素敵です。
posted by 柳屋文芸堂 at 23:09| 読書 | 更新情報をチェックする