2011年11月09日

ショーン・タン

 オーストラリアの絵本作家、ショーン・タンの作品を二つ紹介します。

「アライバル」
 絵だけで語られる移民の物語です。
 「邪悪な何か」に包まれてしまった故郷を捨て、男は出稼ぎのような形で新しい街におもむく。
 船に乗っても、宿に着いても、家に残してきた妻と娘のことが頭から離れない。
 そこは不思議な街で、どの人も小さな怪獣のようなペットを連れている。
 慣れない言葉、食べ物、習慣。
 男は不安を感じながらも、親切な人々に助けられながら、生活を始める……

 まず、絵の饒舌さに驚きます。
 出発前、男の手に奥さんの手がそっと重なる時の、温もり、悲しさ、寂しさ。
 その感触がまるで自分の記憶であるかのように、こちらに伝わってくるのです。

 街の人たちが優しいのは、自分たちも移民で、つらい過去があるから。
 男が困っているのを見ると、話しかけずにはいられない。
 そこには上辺だけの同情ではない、切実な共感がある。

 震災で県外に避難した人(避難する予定の人・避難しようか迷っている人)に、この本を読んでもらいたいな…… と思った。
 新しい土地でも、きっと素敵なことがある、と思えるはずだから。
 私も一応避難民なので(「邪悪な何か」にばっちりやられちゃいましたから。びっくりよ)門出を祝ってもらったような、とても前向きな気持ちになれました。

「遠い町から来た話」
 こちらは文章ありの短編集。
 翻訳は岸本佐知子さんです。

 「アライバル」に比べると、明るくモダンな雰囲気。
 「アライバル」は「ぼくの両親に」という言葉が巻頭にあり(作者のお父さんも移民である)一世代前の、古風でロマンチックな世界を目指している。
 それに対し「遠い町から来た話」は「ポールへ」という手書き文字で始まっていて(ポールはおそらくお兄さん)同時代の「兄さんとぼく」の世界の不思議を描いている。

 どの話も良いのだけど、特に私が気に入ったのは「エリック」
 エリックというのは、クルミやピーナッツをカバンのように提げている、小さな交換留学生。
 これがねー もうねー 破壊的に可愛い。
 黒くてペラッとしたピクミン、と言って分かってもらえるかどうか。

 主人公の「ぼく」はエリックに楽しんでもらおうと、街のあちこちに連れてゆく。
 しかしエリックは、主人公が見せたいものではなく、地面に落ちている王冠やボタンばかりに興味を示す。
 気持ちがうまく噛み合わないことに、イライラしていると……

 私もオーストラリアでショートホームステイをしたことがあるので、その時の楽しかった気持ちを思い出しました。
 折り紙を折ったら、無口なお父さんが、
「You are clever!(器用だね!)」
 と言ってくれたこととか。

 泊めてくれたお家の人も、学校の生徒たちも、みんなおおらかで、良くしてくれた。
「さすがに自然や資源が豊かな国は、おっとりしているなー 何も無いところから金をひねり出さなきゃいけない日本とは大違いだぜ」
 なんてその時には思ったのですが、移民の多いオーストラリアの「お国柄」だったのかもしれない。

 「アライバル」も「エリック」も、異質なものに対する寛大さにあふれている。
 日本には決定的に欠けているものなので、羨ましく、見習いたいと感じました。

 二冊とも、クリスマスプレゼントにぴったりだと思うの!
 ぜひぜひ、本屋で開いてみてください。
posted by 柳屋文芸堂 at 01:11| 読書 | 更新情報をチェックする