2013年03月10日

物語を作る−仮説の話

 良き物語を作るために小説家がなすべきことは、ごく簡単に言ってしまえば、結論を用意することではなく、仮説をただ丹念に積み重ねていくことだ。
(村上春樹「雑文集」より)

 小説を書く、というのがどういうことなのか、この文章を読んで少しはっきりしました。
「彼女がもし最終兵器だったら」
 という仮説を立て、その後に起きるであろう事件をふざけず真剣に積み上げていけば「最終兵器彼女」という物語になる。
 いや、これは漫画だけど、仮説の無茶苦茶さと積み上げ方の丁寧さが印象的なので例に挙げてみた。

 仮説について考える時、一番分かりやすいのはSFだと思う。
「人造人間がこの世に生きることになったら」
 →「フランケンシュタイン」
「第二次世界大戦でドイツと日本が勝っていたら」
 →「高い城の男」
 仮説が荒唐無稽でも、その仮説から引き出されてゆく事実が自然であれば、その物語は真に迫ったものになる。

 SFのように奇抜なところの無い一般的な物語において、一番大きな仮説は「登場人物の性格」なのではないか。
 私はなるべく詳しくその登場人物のそれまでの人生を考え(家族構成、趣味、得意不得意、のんびりしてるかせっかちか、など)心の中で彼らがちゃんと生命を持つように気をつける。
 時々うっかりして「彼らの意見」ではなく「自分の意見」を言わせそうになり、危ない危ないと修正したり。

 作者と登場人物は同じではない(似てる場合はよくあるけど)
 登場人物を自分の思い通りに動かすのではなく、彼らがやること・言うことを静かに見守って書き留める。
 作者は登場人物にとって神ではなく、庭みたいなものだ。
 読む人がなるべく面白く感じるように、登場人物の行動記録を編集する必要もある。

 それにしても、仮説を積み上げてゆくことは何故こんなに幸せなんでしょう?
 他人が積み上げたものを読書によって吸収するのも、また幸せですね。
posted by 柳屋文芸堂 at 21:27| 執筆 | 更新情報をチェックする