2013年05月04日

「短くて恐ろしいフィルの時代」感想

 作者はジョージ・ソーンダーズ。
 翻訳は岸本佐知子。

 この小説の舞台になっている「内ホーナー国」は、小さい。
 どれくらい小さいかというと、
「国民が一度に一人しか入れない」

 では国民は一人なのかというとそうではなく、自国に入れない内ホーナー人が6名おり、内ホーナー国を取り囲む「外ホーナー国」の一時滞在ゾーンに立っている。
 国の小ささも異常だが、国民の外見もただ事ではない。

 キャロルにはキャルという、巨大なベルトのバックルに青い点を一つくっつけて、それをさらにツナの空き缶に接着したような感じの内ホーナー人の恋人がいたのだ。
(中略)
 キャロルがキャルのベルトのバックルを磨いてやったり、ツナ缶のふたを開けたり閉めたりしていちゃついているのを見るうちに、フィルはどんどんひねこびていった。

 えー……
 えーっと……
 バックルを磨くのはともかく、ツナ缶のふたを開けたり閉めたりすることがイチャイチャになるのかよく分かりません。
 まあとにかく、内ホーナー人も外ホーナー人も、こんな感じに想像しにくい外見です。

 フィルはキャロルに横恋慕しており、その恨みがきっかけで二つの国の間に紛争が起きる。
 小さな世界に仮託して社会風刺をしている話みたいに見えるし、実際そうも読めるのだけど、単純に、
「荒唐無稽なギャグ小説」
 と思った方がこの作品の素晴らしさを素直に受け取れると思う。
 読み終えるまでに10回くらい声を出して笑ったもの。

 フィルは脳みそを落っことすと途端に雄弁になり、最終的に独裁者となる。
 でも実を言うと高校時代は冴えない奴で、リーダー格の生徒たちにからかわれていたことを同級生が思い出すシーンとか、好きだなぁ。

 文章は非常に読みやすいです。
 奇妙系小説の入門としても良いんじゃないでしょうか。
 奇妙系小説って何だよ。

 この話の風刺の要素を気に入った人は、ぜひオーウェルの「動物農場」も読んでください。
 いやむしろ私はオーウェルにこの本を読ませたい。
 あなたの心意気は、21世紀の小説の中でも活き活きと息づいています。
 人間の愚かさはちっとも治ってないようです!
posted by 柳屋文芸堂 at 10:36| 読書 | 更新情報をチェックする