2014年01月17日

スケートリンクで

 Dちゃんが帰って来ないから前の彼氏の話をするわよっ

 たぶん2月くらいだったと思う。
 彼は父親と友達と一緒に、スケートをしに行くことになった。
 3人の中で彼だけがスケート初体験。

 その時すでに恋人ではなくなっていたのだけど、私が運動音痴なのを見込んで呼び出された。
「滑れない要員」
 である。

 1人で負けるより2人で負けた方がマシだと考えたのだろう。
 しかし残念ながら、私は子どもの頃に冬休みだけの短期スケート教室に通った経験があるのだ。
 スケートもローラースケートもスキーも一応全部滑れる(下手だが)
 
 父親と友達と元彼女がスイーッとスケートリンクを回っているのに、彼だけは端っこの柵につかまり1人でちまちま進む。
 少しはそばに付いていてあげたりもしたのだが、滑れる人間がスケート靴を履いたら、やはり滑りたいのである。
 自分で状況を悪化させた彼の絶望はかなりのものだったと思う。
 
 思うように動けないことに苛立った彼は、私と友達の前で、ほふく前進し始めた。
 他にもお客は沢山いたし、スケート靴は鋭利だ。
「危ない!!」
 と叫んだけど、けっこう長いことそのまま前進していた。

 寒い季節が来るたびに、その時のことを思い出す。
 微笑ましく、切なく。
 負けず嫌いなあの人の、まぬけで必死な背中。

 憎めない人だったなぁ。
posted by 柳屋文芸堂 at 23:43| 思い出 | 更新情報をチェックする