2014年03月01日

映画「ドストエフスキーと愛に生きる」感想

 ウクライナ出身の翻訳家、スヴェトラーナ・ガイヤーの人生と日常を追ったドキュメンタリー。
 撮影当時、スヴェトラーナは84歳。
 予告編を見た時、曲がった背中と、てきぱきした働き者の体が印象的で、
「どうしても劇場に行かねば!」
 と思ったのでした。



 ニュースでも大きく取り上げられていますが、ウクライナというのはなかなか大変な国ですね。
 彼女が10代の頃は東にスターリン、西にヒットラーという最悪の政治状況。
 お父さんはスターリンの粛清に遭い、奇跡的に釈放されたものの、獄中で受けた暴力が原因で亡くなってしまう。

 そこで何が行われたのか、お父さんはスヴェトラーナに話して聞かせた。
 その時のことを、触れていた布の感触まではっきり覚えている。
 にもかかわらず、具体的な話の内容は完全に記憶から消えているという。

 忘れたというより、真っ黒く塗りつぶされたような。
 現在と記憶を結ぶ糸を意識的に切ったような。
 語ることの不可能な語り、が恐ろしかった。

 と、これだけ書くと暗い話のようですが、美しく楽しい場面も多くありました。
 スヴェトラーナは料理やアイロンがけなどの家事を一つ一つ丁寧に行う。
 そしてその手仕事から得た哲学が、翻訳の仕事と結びついているのです。
 炒められる玉ねぎ。細かく編まれたレース。
 ささやかな日常の映像が少しも退屈ではなく、贅沢に感じる。

 友人に手伝ってもらいながら翻訳をする時には、思いのほか強情な素振りを見せて、劇場は何度も笑いに包まれた。
 若い学生たちを前にした講義も、ユーモアたっぷり。
 彼女が語った言葉の一つを引用します(パンフレットに載っていた)
 
 きっと貴方たちも、
 人生の中で
 いつか言葉を話しかける
 魚に出会うはず。
 その言葉は、必ず理解できます。
 自然や科学の法則は
 関係ありません。
 だから勇気を出して、
 内なる声に従うこと
 たとえそれが、
 世の中を支配している
 多くの者たちの声に
 逆らうことになったとしても


 どうして行く先々で色々な人が私を励ましてくれるのだろう、と泣きそうになりました。
 彼女は言葉に励まされて生きてきたから、時間的にも空間的にも遠くにいる私まで、力強く励ますことが出来るのだ。

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 私はシネマート六本木で見ましたが、上映回数は渋谷アップリンクの方が多いようです。
posted by 柳屋文芸堂 at 04:00| 映画・映像 | 更新情報をチェックする