2014年07月05日

シネマ歌舞伎「女殺油地獄」感想

 シネマ歌舞伎の「女殺油地獄」を見てきました〜
 歌舞伎座のそばにある映画館「東劇」で、録画の歌舞伎を見られるのです。
 公式サイトの上映予定作品リストはこちら

 「女殺油地獄」はその名の通り、油まみれで女が殺される話。
 ストーリーはそれほど複雑じゃないのに、エヴァンゲリオン並みに謎だらけで、見終わった後呆然とした。

 主人公の与兵衛は大阪の油屋、河内屋の放蕩息子。
 芸者に入れあげ借金を作り、喧嘩沙汰を起こして親戚にも迷惑をかけてしまう。
 家に帰ると家族に暴力。

 そんなどうしようもない男だが、同業の油屋、豊嶋屋の若おかみお吉は、与兵衛をいつも心配しあれこれと世話を焼いてやる。
 勘当された与兵衛はお吉の店に行き、金を無心する。
 しかし断られ、カッとなって襲いかかる。

 実際はもっと沢山細かいエピソードが入るのですがまあ大筋はこんな感じ。
 この話の何が謎かというと、まず与兵衛の性格。
 暴力的なのに気が弱く、情にもろいのに残忍。
 衝動的で、自分がやることの結果を想像出来ないから、殺人の快楽に夢中になった直後に恐怖に怯える。

 物語の登場人物にしては一貫性が無さ過ぎるのだ。
 とらえるのが難しく、戸惑いを感じる。
 でも現実の人間にはもともと一貫性なんてない。
 すごくリアルだ。

 もう一つの謎は、与兵衛とお吉の関係。
 与兵衛はお吉に惚れているのか?
 お吉は与兵衛に惚れているのか?
 相思相愛なのを隠しているのか?
 それともお吉は大阪のおばちゃんとして、ごく当たり前の親切をしているだけなのか?

 与兵衛の性格と、与兵衛とお吉の関係は、演出や俳優の解釈によっていくらでも変えられる。
 もし与兵衛がお吉に惚れていたら、殺人の理由は金だけではなくなり、油まみれで組んずほぐれつ、の意味も変わってくるだろう。

 この殺しの場面で演奏される三味線の音が素晴らしいんだ。
 バイオリンのピッチカートを多用した現代音楽に似ている。
 聴く者を不安にし、心をざわざわさせる。
 この不吉な音楽と赤ん坊の泣き声が響く中、与兵衛はひざを震わせながら家中の引き出しを開けて金を集める。

 で、最後の謎。
 この与兵衛がお吉の店を出るところで話が終わっちゃうんだよ。
 「罪と罰」だったら話はここからなのに……!
 こんな酷い殺人をしておきながら、まんまと逃げおおせちゃうわけ?!

 調べてみると、捕まる場面もちゃんとあるみたいです。
 ただ、今回の上演では省かれていた。
 この方が想像をかき立てて私は好きだな。

 そう。「女殺油地獄」は想像の余地をたっぷり含んだ豊かな物語なのだ。
 一回見たからもういいや、ではなく、他の演出で、他の俳優で、他の媒体で(文楽や映画がある)見てみたい!
 色んな解釈を知りたい!
 そう思わせる。

 池澤夏樹が編集する日本文学全集では、桜庭一樹が女殺油地獄を現代語訳するそうですよ。
 これも楽しみだけど、私は舞城王太郎版の女殺が読みたいなぁ。
 ムチャクチャなのに同情してしまう暴力的なダメ男、と言ったら舞城でしょう。
 もちろん全部福井弁で。
posted by 柳屋文芸堂 at 01:24| 演劇・演芸 | 更新情報をチェックする