シネマ歌舞伎の「女殺油地獄」を見てきました〜
歌舞伎座のそばにある映画館「東劇」で、録画の歌舞伎を見られるのです。
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「女殺油地獄」はその名の通り、油まみれで女が殺される話。
ストーリーはそれほど複雑じゃないのに、エヴァンゲリオン並みに謎だらけで、見終わった後呆然とした。
主人公の与兵衛は大阪の油屋、河内屋の放蕩息子。
芸者に入れあげ借金を作り、喧嘩沙汰を起こして親戚にも迷惑をかけてしまう。
家に帰ると家族に暴力。
そんなどうしようもない男だが、同業の油屋、豊嶋屋の若おかみお吉は、与兵衛をいつも心配しあれこれと世話を焼いてやる。
勘当された与兵衛はお吉の店に行き、金を無心する。
しかし断られ、カッとなって襲いかかる。
実際はもっと沢山細かいエピソードが入るのですがまあ大筋はこんな感じ。
この話の何が謎かというと、まず与兵衛の性格。
暴力的なのに気が弱く、情にもろいのに残忍。
衝動的で、自分がやることの結果を想像出来ないから、殺人の快楽に夢中になった直後に恐怖に怯える。
物語の登場人物にしては一貫性が無さ過ぎるのだ。
とらえるのが難しく、戸惑いを感じる。
でも現実の人間にはもともと一貫性なんてない。
すごくリアルだ。
もう一つの謎は、与兵衛とお吉の関係。
与兵衛はお吉に惚れているのか?
お吉は与兵衛に惚れているのか?
相思相愛なのを隠しているのか?
それともお吉は大阪のおばちゃんとして、ごく当たり前の親切をしているだけなのか?
与兵衛の性格と、与兵衛とお吉の関係は、演出や俳優の解釈によっていくらでも変えられる。
もし与兵衛がお吉に惚れていたら、殺人の理由は金だけではなくなり、油まみれで組んずほぐれつ、の意味も変わってくるだろう。
この殺しの場面で演奏される三味線の音が素晴らしいんだ。
バイオリンのピッチカートを多用した現代音楽に似ている。
聴く者を不安にし、心をざわざわさせる。
この不吉な音楽と赤ん坊の泣き声が響く中、与兵衛はひざを震わせながら家中の引き出しを開けて金を集める。
で、最後の謎。
この与兵衛がお吉の店を出るところで話が終わっちゃうんだよ。
「罪と罰」だったら話はここからなのに……!
こんな酷い殺人をしておきながら、まんまと逃げおおせちゃうわけ?!
調べてみると、捕まる場面もちゃんとあるみたいです。
ただ、今回の上演では省かれていた。
この方が想像をかき立てて私は好きだな。
そう。「女殺油地獄」は想像の余地をたっぷり含んだ豊かな物語なのだ。
一回見たからもういいや、ではなく、他の演出で、他の俳優で、他の媒体で(文楽や映画がある)見てみたい!
色んな解釈を知りたい!
そう思わせる。
池澤夏樹が編集する日本文学全集では、桜庭一樹が女殺油地獄を現代語訳するそうですよ。
これも楽しみだけど、私は舞城王太郎版の女殺が読みたいなぁ。
ムチャクチャなのに同情してしまう暴力的なダメ男、と言ったら舞城でしょう。
もちろん全部福井弁で。
2014年07月05日
シネマ歌舞伎「女殺油地獄」感想
posted by 柳屋文芸堂 at 01:24| 演劇・演芸
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