2014年07月27日

岡檀(おか まゆみ)「生き心地の良い町」

 毎年ほぼ3万人の自殺者を出す日本にも、自殺率の極めて低い特別な町がある。
 徳島県旧海部町。

 そんなの偶然なんじゃないの? 人口も少なそうだし……
 と思いませんか? 私は思いました。
 そう否定されないよう、データ処理の方法がかなり丁寧に説明されています。

 人口が少ない分を補正するために、30年間の自殺者数を比較したそうです。
 その間に市町村合併などもあり、データの収集は難しい。
 県庁の統計調査課の人などに協力してもらって奮闘する様子が、プロジェクトXっぽくてワクワクしました。

 自殺率の低さがデータで裏付けられ、海部町の人々に対する調査を開始。
 方法は観察・インタビュー・アンケートなど。
 その結果分かった彼らの特性は……
 
 いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
 人物本位主義をつらぬく
 どうせ自分なんて、と考えない
 「病」は市に出せ
 ゆるやかにつながる


☆いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
 こうやって考えていた方が環境の変化に耐えられるし、色んな人がいた方が集団全体が間違った方向に進みにくい。
 そのことを生活の知恵として人々が知っている。

☆人物本位主義をつらぬく
 年長者であるだけで威張ったりすると「野暮だと思われる」
 町の雰囲気を悪くするものを「野暮」という言葉で封じてきた。

☆どうせ自分なんて、と考えない
 世の中に対して影響を与えられる、と考えている人が多い。
 何をしたってムダだ、と諦めることがないので、自殺予防につながっていると考えられる。

☆「病」は市に出せ
 町に伝わる格言。
 病気だけでなく、家庭内のトラブルや事業の不振など、困ったことがあったら早めに周囲に言え、ということ。
 自分一人では解決出来ないことでも、誰か別の人が妙案を出してくれるかもしれない。
 そしてトラブルは初期のうちに対処した方が解決しやすい。
 この教えが多くの人に継承されている。

☆ゆるやかにつながる
 人付き合いは意外と淡白。
 相互扶助組織などもあるが、加入は強制ではない。
 おしゃべりはするが、結託して異分子を排除するほどまでにはならない。
 ほどほどの距離感が孤独を防ぐ。

 海部町は江戸時代に材木の集積地として急激に栄えたそうで、労働者・職人・商人など、もともとよそ者の集まりだった。
 彼らが定住する過程で、皆が心地良く共存する方法を求めた結果、こういう特性が生まれたのではないか、とのこと。

 こういう町が日本にもあるんだー
 とびっくりしました。

 作者のユーモアがあちこちに散りばめられていて、とっても読みやすいです。
 生き心地が悪いなー と感じている全ての人におすすめしたい!
posted by 柳屋文芸堂 at 00:49| 読書 | 更新情報をチェックする