2015年02月20日

村上春樹「トニー滝谷」感想

 「英語で読む村上春樹」というNHKの語学講座があります。
 そこで現在取り上げられているのが「トニー滝谷」という短編小説。

 昨日、結末が掲載された3月号が発売されました。
 原文(日本語)だけ読み終わらせ、
「トニー!!」
 と叫び続けております。

 切ないっ 切ないよ!
 「ダンス・ダンス・ダンス」を読んだ時に似ている。
 あの時もしばらく五反田くんのことしか考えられなくなった。
 実在の人物を愛して失ったみたいな気持ちだった。
「どうすればトニーを幸せに出来るんだ…… トニー、トニー!!」

 トニー滝谷は100%日本人なのに、外国文化に馴染みのある風変わりなお父さんから「トニー」と名付けられ、その名前と同様に「浮いた存在」として孤独に生きている。
 それでも三十代で初めて恋をし、相手もトニーを好きになってくれて、無事に二人は結婚する。
 生まれて初めて孤独ではない日々が始まり…… と説明すると甘い展開みたいだけど、このあたりを読んでいる時が一番怖かった。

「ねえこれ、ハッピーエンディング?!」
 ジェットコースターの一番高い所に登っていく時のゾクゾク感ですよ。
 絶対これ、落ちるって!
 どこへ? どうやって?!

 トニーの孤独を引き受けるように、奥さんがおかしくなってゆきます。
 毎日ブティックに通いつめ、部屋を埋め尽くす服、服、服。

 終わり近くの、トニーから見た洋服の描写が、言葉が奥さんの体にからまっていくようで、奥さんの洋服がトニーにからまっていくようで、でも結局誰かを愛するって、何を愛しているのだろう。
 たとえ表皮一枚でしかつながれなくても、愛した実体が何なのか分からなくても、愛の苦しみは人を確実に壊すのだ。

 なんて美しく閉じた登場人物。
 絶対解けないパズルを解くように、この人を幸せにする方法を考える。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 00:38| 読書 | 更新情報をチェックする