2015年05月02日

山口汎一「ぱなとりゑ」紹介

 失われた技術の話をしよう。

中国皇帝印形特集(9号).jpg
(中国皇帝印形特集)

 さて、みなさん。
 これは山口汎一さんの「ぱなとりゑ」という本の一部です。
 どのように印刷されたものか、分かりますか?

 「活版」という印刷方法があります。
 活字を組み合わせて作った版(文字だらけのでっかいハンコ、を想像してみると良いかも)にインクを付けて刷る。

 活版印刷は失われた技術ではない。
 かつてのように新聞や雑誌に使われることはなくなったけれど、この方法で名刺や招待状などを作ってくれる会社が今でもある。

パナトリエ雑事記(11号).jpg

 左側の政治家を描いた風刺画は、版画ですね。
 では右側の文章も、版画?

 実を言うとこれは、
「手彫りの活字を使った活版印刷」
 なのです。

 山口さんの親戚の方(山口高史さん)がメールで製作方法を教えて下さいました。

 パナトリエは、リノリウムを彫って一文字一文字作ったオリジナルの活字を使って印刷されています。
(リノリウムとは年賀状の版画印刷などに使う緑色の柔らかい合成樹脂のマットです)

1、1cm角のリノリウムに漢字や平仮名などの文字を彫ります。
 (オリジナル活字のライブラリは六千字近い字数です)
2、それをブロックの玩具“レゴ”に接着し、レゴをつなげて活字を一行に組みます。
3、それらの行を枠にはめて固定して1ページを製版し、伝統紙(和紙)に刷ります。
4、和綴じで製本します。


 完成品の外観は、

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 六千字を手で彫り上げるのもすごいけれど、レゴを使って活字を組むというアイデアにもうならされます。
 しっかり固定されるから版が安定するし、何より楽しそう。

パナ爺3.jpg

 これは「パナ爺」という山口さんご自身のイメージキャラクター。
 持っている物からして、文字を彫っているところではないかな?

パナ爺(作家本人のイメージキャラ).jpg

 パナ爺、作業中。
 活字を集め、刷って、製本して……

パナ爺2.jpg

 別の紙を貼り込む手法や、

串田孫一氏検印特集(10号).jpg
(串田孫一氏検印特集)

 絵本のようなページも。

当世瓦版絵話(9号).jpg

 山口汎一さんの経歴を、山口高史さんのメールから引用します。

1939年10月14日 生まれる。
   幼少の頃より漫画(主に手塚治虫)のキャラクターなどをゴム判に彫り押して遊ぶ趣味をもつ。
   長じて、リノリウムにカミソリでカットするリノカットをはじめる。
1971年
   活字を1個ずつ彫り、植字・印刷・製本する自家本「ぱなとりゑ」1号をささやかに刊行。
   ちなみに「ぱなとりゑ」の由来は自分の名前「汎」(ハン)+アトリエの合成語。
   以後、京都市の高校で美術を教える傍ら、不定期に11号まで刊行。
   その間、多数の豆本刊行。
1988年5月31日
   志半ばにして没。


 50歳になる前に亡くなられているんですね。
 1988年頃はまだコミケも一般的でなかったし、文章系同人誌即売会もおそらく始まっていなかった。

 生きておられたら70代。
 自分の手で「ぱなとりゑ」を販売することが出来たら。
 読者の声を直接聞くことが出来たら。
 パナ爺の笑顔が心に浮かんで、胸が苦しくなる。

 けれども、本当に「志半ば」だったのだろうか、とも思うのだ。
 リノリウムを彫り、活字を並べる、その全ての瞬間が幸福に満ちていたのではないかと、私は感じる。

絵っ体な漢字 001.jpg

 これは「絵っ体な漢字」というポスター。
 山口汎一さんの文字への愛が凝縮されている。
 真っ赤な嘘や黄色い声を見つけた時、私はきっと汎一さんと同じ表情で微笑んでいる。

 この記事の写真、サムネイルが小さいもの以外は山口高史さんが送ってくださったものです。
 ありがとうございました!
 高史さんは今後も「ぱなとりゑ」をたずさえて同人誌即売会に参加されるとのこと。

 本好きの方はぜひ立ち寄ってみてください。
 誌面からあふれる情熱に、絶対心打たれますから。

 ところで、ドラえもんは見つかりましたか?
 
posted by 柳屋文芸堂 at 01:32| 読書 | 更新情報をチェックする