世界を統べる力には、重力、電磁力、強い力、弱い力があるが、
「美味しい匂い」
という新たな力を加えたい。
この力により焼き鳥屋の前で人々の軌道が曲がる。
スーパーから家に真っ直ぐ帰るはずだったおばちゃんが店先に吸い寄せられ、お兄ちゃんの乗ったオートバイもUターンして戻って来る。
ブラックホールが暗いのは、重力が強過ぎて光さえ落ちてゆくから。
吸い込まれた光子たちはどうしているのだろうと思っていたけれど、宇宙空間をワープして、ここ焼き鳥屋に集まっているのだ。
鳥を焼く赤外線。
虫除けの紫外線。
人びとを照らす優しい可視光線。
鳥を焼く香ばしい匂いの中へ、私も素直に落下する。
「皮とぼんじりとつくね。タレじゃなく塩で」