2016年10月12日

オカワダアキナ「ぎょくおん」感想

 主人公の郡司は、半分だけ血の繋がった姉との歪んだ関係(性的な接触はするが、セックスはしない。常に姉の言いなり)から逃げ出し、海辺の温泉街で働いている。
 自分の意志で離れたのに「姉に捨てられた」という感覚に苛まれ、姉と過ごした日々のことばかり思い出す。

「姉さんがおれの名前を呼んで、息だけで笑います。合図だ、と思いました。それはもう段取りで、流れとしておれは姉さんに口づけました。頬は冷たいのに、口のなかはぬるりと熱いのもいつものことです」

 姉さんの様子や二人の関係が端的に伝わってくる文章に、ほうっとため息が出る。

 温泉街での出来事は、姉に報告するような文体で語られる。
 太宰治「斜陽」の「姉への手紙」がずっと続いていく感じ。
 郡司はまるで自分一人では思考出来ないかのよう。

 暗い主題と雰囲気に、繰り返し出てくる少女やクラゲのエピソード、リアルなモップがけ描写等々、良くも悪くもあまりに文学的で、正直、
「結末までこのままだったら物足りないなー」
 と感じていた。
 でもおかさんに限ってそんなことはあるまい、とも。

 そうしたら!
 中盤で日本語ペラペラの外国人アランが郡司を口説き始めた! 待ってましたーっ!

「そしたらもうセックスしかないよ。たとえばおれと郡司が、昔昔のおとぎ話に出てくるような騎士とかで剣と剣で語り合えるのならそれでいいだろうけど、ここは日本でしかも二一世紀だからね」

 そうですとも!
 アランは「好きじゃない人ともやれる」のではなく「みんな好きだから、男も女も関係なく寝ちゃう」
 身勝手なラブ&ピースによって、昭和的陰鬱を破壊する。
 そうそう、そう来なくっちゃ!

 海辺で嘔吐している郡司を見かけたアランが、
「口ゆすがせてあげたいけど、おれビールと氷結しか持ってないんだよね」
 って言う場面が好きだ。すごく彼らしい。

 ガイジンであるアランがきっかけになってゲンバクは落ち(暗喩)、郡司の戦いは終結する。

「姉さん、あなたときょうだいになりたかった。口づけや愛撫でごまかさずに、言えばよかった。おれはことばというものから逃げすぎた」

 「話す」というのは誰とでも出来る行為で、「口づけや愛撫」は特別な人としか出来ないことだから、口づけや愛撫より話す方が簡単で軽いと、私は思い込んでいた。
 でもそれが反対になる関係もある、いや、本当に大切なことを話すのは、セックスするよりずっと難しいことなのかもしれない。

 ところで綾野剛が郡司役をやったら、すごく良い感じに死んだ目をして演じてくれそうですね……(うっとり)
 
posted by 柳屋文芸堂 at 12:17| 読書 | 更新情報をチェックする