2017年01月07日

唐橋史「さんた・るちやによる十三秒間の福音」感想

「私が事切れるまでのあいだ、数をかぞえてくださいませんか」

 タイトルにある「十三秒間」というのは首を切られてから死ぬまでの時間。
 近世初期のキリシタン弾圧の話で、メインとなるのは斬首刑の場面です。

 この十三秒間に何が起き、それによって周囲の人々にどんな変化が起きたかは克明に描かれているが、十三秒間の意義についての説明はない。
 解釈は読者に委ねられている。

 この作品を読んで、私はジョージ・オーウェルの「絞首刑」という文章を思い出した。
 一部引用してみる。

「奇妙なことだが、その瞬間まで私は、一人の健康な、意識のある人間を殺すということがどういうことなのか、まったく分かっていなかった。ところが、囚人が水たまりを避けようとして脇にのいたのを見たとき、盛りにある生命を突然断ち切ってしまうことの不可解さを、その何とも言えぬ不正を悟った」

 生きている者はいつか必ず死ぬ。
 その運命からは誰も逃れることが出来ない。
 にもかかわらず、死が本当のところどんなものなのか、誰も知ることは出来ない。
 知った瞬間にそれについて語れなくなる、それが死だ。

 るちやがもたらした十三秒間は、人々に死の本質を教えたのではなかろうか。
 理屈ではなく、体に感じる震えとして。
 自分とは無関係であったはずのキリシタンが、まさに自分の人生の先にある死の体現者として迫ってくる。
 その世界を一変させるような恐怖。

 全ての人にとって謎であり、全ての人が辿り着く「死」
 どれだけ時代が変わっても、物語を生み出す最大の源泉であり続けるだろう。

さんた・るちやによる十三秒間の福音 -
さんた・るちやによる十三秒間の福音 -

 短編集で、表題作の他二編が収録されている。
 ぼんやりしているけど優しい「のろ八」が、幕末の壊れてゆく江戸を右往左往する「smile」も切なくて良かった。

 ちなみに「絞首刑」が入っているのはこちら。

象を撃つ―オーウェル評論集〈1〉 (平凡社ライブラリー) -
象を撃つ―オーウェル評論集〈1〉 (平凡社ライブラリー) -

 オーウェルは若い頃、警察官をしていたので、「さんた・るちやによる十三秒間の福音」の主人公である同心・孫四郎と仕事が似ています。
 孫四郎はその後どんな人生を送ったんだろうな……
 
posted by 柳屋文芸堂 at 12:06| 読書 | 更新情報をチェックする