2017年02月17日

並木陽「斜陽の国のルスダン」感想

斜陽の国のルスダン -
斜陽の国のルスダン -
↑Amazonでも購入出来ます。表紙も素晴らしい。


 これは本当に濃密な物語で、様々な角度から読み解くことが出来る分、どこに重点を置いて感想を書いたら良いか分からず数ヶ月間ウンウンうなっていたのですが、ようやく決めました。

「愛する妻を守るために、帝王の寵愛を受け入れた美しい王子」

 について書きます!

 最初に読み終えた時、
「ジャラルッディーン×ディミトリの薄い本ください」
 って真っ先に思ったんだよ。
 邪心丸出しで恥ずかしくても、自分の第一印象は大事にしよう。

 物語の舞台は13世紀のグルジア。
 キリスト教国でありながらローマからは遠く離れ、強大なイスラム文化圏と境を接している。
 女王ルスダンの夫となったのはイスラム教国ルーム・セルジュークの王子、ディミトリ。

 チンギス・ハンが率いるモンゴルや、イスラム教国であるホラズムの攻撃を受け、グルジアはかつての栄光を失いつつあった。
 ホラズムに機密を漏らしているのではないかとディミトリを疑い続ける廷臣たち。
 何を言われようとディミトリをかばい続けるルスダン。
 苦難の中にあってもルスダンとディミトリは深く愛し合っていた、はずだった。

 ディミトリはルスダンの命を守るため、ホラズムとの和平の道を探っていた。
 ディミトリと間者の会話を聞いてしまったルスダンは裏切られたと思い込み、ディミトリを幽閉する。

 ホラズムの帝王ジャラルッディーンはグルジアの王都トビリシ攻略の際、ディミトリに一目惚れする(※ここから腐女子目線です)
 その場面が本当に素敵なので引用しますね!

「神よ、讃えられてあれ」
 ジャラルッディーンは感動したように言った。
「貴公こそ、まさに自然が造りたもうた天然の芸術品だ。ルーム・セルジュークの王子、エルズルム公の第四子よ。美貌の噂はかねがね聞いていたが、今、目の前にいる貴公の姿は想像を超えている」
 帝王(スルタン)は手ずからディミトリを助け起こすと、彼の手を取って言った。
「いろいろと苦労されたようだが、もう何も案ずることは無いぞ。美しい王子、ジャラルッディーンの名の下に貴公に平安(アマン)を約束しよう」


 アラブBL? 石油王?
「極上……」
 ってつぶやいて生唾飲み込んでしまうよ。

 あとがきによると、ディミトリがジャラルッディーンの寵愛を受けたのは史実らしく、

「ジャラルッディーンはこの王子を自ら割礼を施した息子ででもあるかのように深く愛したということです」

 意味深ですね!

 かつて敵であったにもかかわらず、ディミトリはジャラルッディーンを憎まない。
 自分にはない強さや統率力に憧れ、彼の立場で許される限りの誠意を尽くす。

 ディミトリは身を落とす原因となったルスダンのことも恨まない。
 最後には伝書鳩を使ってホラズム側の情報をルスダンに伝え、自害する。

 私は以前、歴史小説に苦手意識を持っていた。
 それはおそらく、そういった話のメインキャラになりがちな、
「野心に燃える男たち」
 にうまく共感出来ないせいだ。

 ディミトリにも野心はあるが、それはルスダンと、彼女が愛した都を守るための優しさから生じたもの。
 複雑な事情を抱えた国で、複雑な境遇に置かれた王子は、自分の良心に従って精一杯生きた。
 彼の利己心からではない奮闘が、この物語を読みやすく、あたたかいものにしている。

 現在のグルジアがどうなっているかも知らないのに、私は13世紀のトビリシの王宮のリラの花の香りをかいだ。
 どこかファンタジー小説にも似た、決して辿り着けない場所への郷愁。

 勇ましい戦史を元にしていても、歴史小説は甘みのある切なさも表現出来る。
 そのことを教えてくれた、ルスダン、ディミトリ、ジャラルッディーン、そして彼らをこの上なく魅力的に描いてくれた並木陽さんに感謝します。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 12:02| 読書 | 更新情報をチェックする