2017年03月05日

村上春樹「騎士団長殺し」感想

 2月24日の発売からこの10日間、怯え、逃げ惑うようにして暮らしてきました。
 ネタバレが怖くて……!
 推理小説の犯人を教えられるのは全く平気なのだけど、村上春樹の小説の内容だけは、村上春樹の文章によって知りたいのです。ほんのささいなことであっても。

 最近は新刊が出るたびにお祭り騒ぎになってしまって、無神経に情報が飛び交うから本当に困る。
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の発売直後、新幹線内の電光掲示板でネタバレされ、
「敵というのはどこに潜んでいるか分からないな」
 と恐ろしく思ったのでした。

 今回もラジオで、
「村上春樹さんの新刊が」
 という言葉を聞くたびドキィィ!としつつ、どうにか無事、事前情報一切なしのまま最後まで読み切ることが出来たので、感想書きますね。

 私が最も心躍らせたのは、主人公が絵を描く場面。
 プロの絵描きで、それ以外特にやれることはない、という設定なので、長い物語の最初から最後までひたすら絵を描いている(多少は他のこともする。料理とか冒険とか)

 私は絵を見るのが大好きなので、画材の描写を読むだけでも幸せな気持ちになる。
 どうやって描き始めるか、描いたものをどのように最善のものに近付けていくか。
 それはきっと村上春樹が小説を書く時に感じていること、これまでに学んできたこと、なのだと思う。

 自分の小説書きに生かせると良いなぁと思いながらじっくり読んだ。

 そして! 何より言わなければいけないのは!
 騎士団長が可愛い!!

 鈴が鳴り始めるあたりは怪談のようで怖かった。
 何が起こるのよ〜 と思っていたら。
 可愛い奴出てきた〜♪

 Dちゃんの前で騎士団長のものまね(免色さんの家で「返答を先延ばしにしろ」とジェスチャーで伝える場面)をしたら、
「まるで見てきたみたいだね」
 と言われた。うん。見てきたよ!

 一番笑ったのは、主人公が「顔なが」に「即興で暗喩を言ってみろ」と迫る場面。
 村上春樹の比喩表現の総括のようだった。

 全体的に見て、そんなに必死こいて読むべきような話ではなく、文庫化されてから家事の合間にのんびり少しずつ読んでいきたかったな〜 とちょっぴり後悔。

 本屋さん的には売り上げのためにお祭り騒ぎになった方がありがたいのかもしれない。
 でも、長期的に見たら、ベストセラーになって、作風に馴染めない人がうっかり手に取ってしまう機会が増えて、
「どこが面白いのか分からない」
 という感想があちこちに出回って、本当に村上春樹の作品を求めている人が、
「村上春樹は面白くないのか」
 と先入観を持ってしまって手に取らない、ということになったら、出版社・本屋・作者・読者全てにとって大きな損失だよなぁ、と心配になる。

 ベストセラーが必ず万人受けする内容であるとは限らない。
 物語と読者が上手く出会うにはどうすれば良いのだろう、とずっと考え続けているのだけれど、答えは出ない。

 この物語を求めている人に、ちゃんとこの本が届きますように。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 12:32| 読書 | 更新情報をチェックする