2019年12月08日

真綿のはんてん

 木枯らし一号が吹いた次の日、七瀬さんから大きな荷物が届いた。
「何だろう」
「衣類って書いてある」
 包装を解き、司と一緒に箱を開けた。黒くてつやつやした布の上に、和紙の手紙が載せてあった。

 翼へ
 最初、久留米絣にしようと考えていたのだが、それだと目つきの悪い男に似合わないと思い、黒の正絹にした。中も真綿だから、クリーニングに出す時にはそのことを伝えて欲しい。
 耕一

「この『目つきの悪い男』って、俺のことだよね」
 司が手紙をにらみつけて言う。眉毛がぴくぴくしている。僕は笑いながら黒い布を持ち上げた。
「わぁ!」
 綿の入ったはんてんが二枚。
「あったかそう!」
 僕はすぐに着てみた。
「意外と薄いね」
 司は布の表面を撫でたり、重さを確かめたりして、なかなか着ようとしない。
「絹か…… 光沢があって、ナイロンみたいだ」
「こっちが元ネタだと思うよ」
 分厚いわけじゃないのに、着ていると布団の中のようにホカホカしてくる。
「司も着てごらんよ」
 司は僕を無視し、はんてんの裏地に付いているタグをつまんで真剣に読んでいる。そのままスマホをいじり始め、僕は少しふくれた。
「真綿って、絹の綿のことなのか!」
 司はそう叫んでスマホの画面を僕に向けた。「真綿」を検索したらしい。
「綿100%だとばかり思ってた」
「真綿で首を絞める」
「あんまり良い意味じゃないよね」
 僕は司の後ろに回って首に抱きついた。はんてんとほっぺたを司の体に押しつける。
「どう? 真綿で首を絞める、の感触」
「あったかい」
「だよねー」
「いやでもそういう意味じゃなかった気がする」
 司は僕に抱きつかれたまま、まだスマホをいじっている。
「久留米絣(くるめがすり)の方が翼に似合う」
「あ、ほんとだ、可愛いね」
「江戸時代のハナ垂らした子供が着てそう」
「ハナは垂らさなくて良くない?」
「絹の綿のはんてん、しかも二人分なんて絶対高いよ。七瀬さんって何者なの?」
「良い人だよ」
「俺はそう思えない」
「やきもち〜」
 司は否定しない。真綿でぎゅうぎゅうと首を絞める。
「司も着てみなよ」
 司はしぶしぶはんてんを羽織った。淡く光を返す墨色が、司の不機嫌な顔によく似合う。
「わぁ〜!」
 ドキドキして顔が熱くなるのを感じる。七瀬さんは「はんてんを着た司」を僕にプレゼントしてくれたのだと気付いた。
「久留米絣を着ている翼が見たかった」
「それは自分たちで買おうよ。服とかがま口とか、色々あったじゃん」
 おそろいの真綿のはんてんで、僕たちはみかんを食べた。笑っちゃうほど絵のような、冬の食卓の風景だった。

(終わり)

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 綿入れはんてん大好きな柳屋文芸堂です。この文章を書いている今も着ています。あったかくて良いですよね〜
 翼と司はグルメBL「翼交わして濡るる夜は」の登場人物。はんてんを着せられて嬉しい。ありがとう七瀬。
 これは「ペーパーウェル」という、コンビニのネットプリントを利用した企画で配信した作品です。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 20:59| ショートストーリー | 更新情報をチェックする