2015年07月18日

おばさんの玉ねぎと卵のみそ汁

 俺の親父は悪徳商法の支店長をしていた
 売上げが良かった奴だけ呼ばれるパーティーに俺も連れてゆき
 ローストビーフとか生ハムメロンとか
 生まれて初めてのものをずいぶん食べた

 事務所には化粧の濃いパートのおばさんがいて
 片親で育つ俺を憐れんだのか
 お湯を沸かすための小さなコンロで
 玉ねぎと卵のみそ汁を作ってくれた

 柔らかい甘い玉ねぎ

 おばさんは旦那も子供もいるのに
 俺の親父とも出来ていた

 騙すつもりが騙されて
 親父は自己破産し俺は親戚に預けられ
 それ以上は話したくない

 思い出すのはみそ汁の味と
 親父はあのおばさんに本気だったんじゃないかという事

 確かめようにも親父はまだ生きているのか
 何十年も音信不通で
 俺は心底ホッとしているのだけど
 
posted by 柳屋文芸堂 at 00:20| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

2015年07月16日

埼玉戦記〜千葉軍によるピーナッツ一斉掃射〜

 千葉軍によるピーナッツ一斉掃射は衰えを見せない。

「くっそぉ…… あいつらどんだけピーナッツを持ってやがるんだ」
 とっておきの草加せんべいを敵の工作員に割られてから、埼玉軍は日に日に追い詰められていた。

「仕方がない。最終兵器を出そう」
「まさか」
「隊長!」

 隊長と呼ばれた男は、誰とも目を合わさずにつぶやく。
「十勝甘納豆本舗の栗甘納糖だ」

 説明しよう!
 この栗甘納糖は大粒で形の良い実だけを厳選し、栗の歯ごたえを残して作られているのだ!

「そんな高級なお菓子で戦うなんて」
 狂気にかられ、ピーナッツの嵐の中に躍り出る一人の兵士。
「宮原ぁぁ!」


 ピーナッツと草加せんべいと栗甘納糖は、撮影の後に美味しくいただきました。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:13| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

小学生女子の困った愛情

 大分土産で柚子胡椒をもらった。

 子供の頃、大分に住んだことがある。
 新しい学校に馴染んだと思ったら、妙な事件が起きた。

 俺の物が次々に消えたのだ。
 イジメかと思ってビビった。
 でも友達の様子はいつも通りだ。

 隣の女子が俺の鉛筆を使っていた。
 リコーダーも下敷きもそいつの机の中にあった。

 ブチ切れて責め立てたら、
「好いちょん」
 とボタボタ涙をこぼし、まるで俺が悪いみたいに。

 大分の言葉にももう慣れて、それが「好きだ」という意味なのは分かったけど。
 何で好きな奴に迷惑かけんだよ。

 柚子胡椒を付け過ぎて辛くなってしまった鍋の白菜を食べながら、
「何事も、ほどほどは難しい」
 なんて。

 小学生男子に理解出来るわけないだろ。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:07| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

良い豚肉の選び方

「良い豚肉の選び方は分かるか」
「さあ……」

 おでこに五本も皺がある伯母は、家に代々伝わる呪文を教えるように厳かに言った。

「白いところのない豚肉が良いんだよ」
「あぁ、脂が少ないのね」

 皺の影がかすかに深まる。

「そんな豚肉はどこにもないんだよ……」
「なけりゃ買えないよ!」

 伯母はああ言っていたけれど、脂身のない豚肉のパックも時々スーパーで売られている。
 これを茹でて豚しゃぶにして、にんにくとしょうがと青ねぎで作った中華風のたれであえ、トマトと焼きなすと青じそを入れる。
 夏の最強の料理。

 焼きなすはふたをして蒸し焼きにした方が美味しいと、教えてくれたのも伯母だ。
 ささやかで大切な工夫ほど、本には載っていないもの。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:02| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

2015年07月15日

埼玉戦士の合言葉

「うまい うますぎる」
「……」
「キサマ、千葉県民だな!」
「まて……っ!」

 問答無用の血しぶき。

 千葉県民と思われた死体(実は神奈川県民)を洞穴に捨てに行った後、埼玉戦士たちは休息を取ろうと決めた。
 さつまいもを練り込んだ川越のお菓子と、あたたかい狭山茶が配られ、アジトは甘い香りに包まれる。

 十万石まんじゅうを食べたことのある埼玉戦士は、意外と少ない。

※埼玉県民はテレビ埼玉で流される、
「うまい うますぎる 十万石まんじゅう」
 というCMを見て育ちます。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:23| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

黄金の果実

 知的障害があるからよそでは働けないという。
 僕が困った時に最初に振り向くのはいつも彼女で、おかしいのは知的という言葉の定義の方だと気付く。

 南国の自然に憧れて島に来たものの、パイナップルは苦手だと思っていた。
 収穫の手伝いの合間に断り切れず一かけ口に入れる。

 それは都会で食べるパイナップルとは全く違っていた。
 酸味も筋もなく、桃やいちごより味が濃くて、太陽の夢を見せながら舌の上で溶けてゆく。

 畑で熟れたパイナップルはみなこの味だと、彼女の家族は淡々と当たり前のように口に運ぶ。

 鋭い彼女は僕の下心を知っていただろう。
 別れの日、親愛の情を示す振りをしてぎゅっと抱きしめた。

 飛行機で二時間。
 東京は砂の城に見えた。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 10:07| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

2015年07月14日

うどん県の恋人

 単身赴任でね
 ここのうどんは美味しいけど
 家庭の味が恋しいよ

 高松ではそんな男 珍しくもないのに
 肉じゃがとみそ汁を作ってあげて
 荒々しい飢えた抱き方に溺れたのは 私の罪

 デートではなく
 地元の人間の親切として
 小豆島を案内する

 一緒にオリーブ畑で働かない?
 会社なんて辞めて
 奥さんとも別れて

 冗談に出来そうにないから
 口には出さない

 何も失わずに東京へ帰ってゆく男の背中

 対等に遊んだだけだと
 私だって何も失わなかったのだと

 必死で自分をだましながら
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:41| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

三浦BL〜マグロとキャベツとその後に〜

 同棲するなら横浜が良かったのに、大樹は三浦から出たくないと言う。

 仕方ないので僕たちは日帰りデートを繰り返していた。
 大樹は待ち合わせ場所に「三浦大根」と書かれたTシャツを着て来たりする。

 三浦は大根とマグロが有名だけど、僕が好きなのはキャベツだ。
 刺身定食に付いてくるコールスローがことのほか美味しい。

「キスするために城ヶ島へ行くか!」

 大樹は照れ隠しで大声で言い、自分で赤くなっている。
 岩場の多い城ヶ島の海岸なら、二人きりになれる瞬間があるかもしれない。
 そうしたら僕は。

「大樹と一緒に三浦に住みたい」

 職場から遠くなっちゃうけど。
 白旗を揚げるように変なTシャツの裾をつかむ。

 愛は全然平等じゃないんだ。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:18| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

2015年07月13日

もんじゃ焼きの神が降臨する

 そこにいたのは教授と大学院生。
 ゼミの飲み会でもんじゃ焼き屋に行ったものの、誰も正しいもんじゃを知らなかった。

「もんじゃはいつ固形化するのでしょうか」
「は?」

 事の顛末を聞き、私は呆れる。
「インテリが雁首そろえてもんじゃが固まるの待ってたわけ?」
 大学院生の男の子は神妙にうなずく。

「もんじゃはトロトロのまま食べるんだよ!
 わざと生地を薄くひいて、カリカリになったのを食べたりもするね」
 美味しさをイメージ出来ないのか、彼は首を傾げる。

「今度一緒にもんじゃ焼き屋に行こう。目の前で見せてあげるから」
「はい!」

 ニコッと笑う顔を見て、お堅い彼をデートに誘えたことを、もんじゃの神に感謝する。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:10| ショートストーリー | 更新情報をチェックする

僕たちは五家宝(ごかぼ)を食べながら、永遠にファミコンをやるつもりでいた

「食べたことないな」

 転校生のタツヤくんは五家宝を知らなかった。
 やわらかいおこしにきな粉をまぶしたお菓子で、ほんのり甘い。
 これを二つ口に頬張り、タツヤくんはスーパーマリオを始めた。

 横顔を見ると、唇がきな粉まみれだった。
 ペロッと舐めてしまいたいと思った。
 僕はひどく幼くて、きな粉が好きなのかタツヤくんが好きなのか、区別がついていなかった。

「うわーっ!」
 マリオが画面の外に落ちてゆく。
 タツヤくんはTシャツの袖で口をこすった。

「周ちゃんの番!」
「うん」

 僕たちは五家宝を食べながら、永遠にファミコンをやるつもりでいた。
 僕がタツヤくんを愛し、タツヤくんが女の子を愛する日が来るなんて、想像もせずに。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 15:33| ショートストーリー | 更新情報をチェックする