伯母(大・84歳・全盲)と旅行する夢を見た。
伯母はこの数年ほとんど寝たきりで、寝床と食卓の間くらいしか移動しない。
バスに乗っているのは元気な頃の伯母ではなく、今現在のヨボヨボの伯母だ。
私は不思議に思って尋ねた。
「何で旅に出ることになったんだっけ?」
「ほら、ずいぶん前に記者会見もしたじゃないか。こういう事をしますって」
ああ、そういえばやったな、記者会見。
あるはずもない記憶をたどって納得する。
椅子に座った伯母が倒れないよう、立ったまま支えなければいけないので、なかなか大変だ。
旅はいきなり帰り道。
夕食のためにバスが停まった。
日没後のかすかな光が、周囲に満ちている。
私たちはどうやら東北にいるらしい。
「秋田とか、他に良い場所がいっぱいあるのに、何でここなんだ」
他のお客は文句を言いながら降りてゆく。
確かに田んぼが地平線まで広がるだけの、何もない村だ。
伯母を椅子から動かせないので、私たちはバスに残った。
窓の外を眺めていると、花や草や木の輪郭が、くっきりと白く浮き上がっているのを見つけた。
山の向こうからライトアップしているのだろうか。
とても美しい。
伯母に様子を説明しながら見とれていると、獅子の格好をした歌舞伎役者が、花を隠すようにバーン! と現れた。
派手な隈取りをして、真っ白な長い髪を振り回している。
反対側には赤い獅子がいる。
どうやら白獅子と赤獅子が戦う劇らしい。
歌舞伎よりはサーカスに近く、獅子は人間業とは思えぬほど高く飛んだり、空中ブランコで自由自在に動き回ったりする。
いつの間にかバスの周りは見物人でいっぱいになっていて、獅子が何かするたびに歓声が上がる。
私はそのたび起きたことを説明した。
伯母は微笑みながらそれを聞いている。
夢から覚めたら、伯母に会いたくて仕方なくなった。
posted by 柳屋文芸堂 at 22:34|
夢(寝ながら見る方)
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