2017年09月21日

映画「ソング・オブ・ラホール」感想

 パキスタンの伝統音楽の演奏家を中心とするオーケストラ「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」についてのドキュメンタリー。
 彼らを一躍有名にした曲はこちら(最初にピーという音が入りますがすぐ演奏が始まります)
 ラジオ番組のテーマ曲にもなっており、よく耳にしていた。



 ラホールというのはパキスタンの都市の名前。
 豊かな歴史を持ち、ムガル帝国の首都だったこともあるという。
 地理・歴史が苦手なので知りませんでした。ごめんなさい。

 70年代のイスラーム化の波、90年代からのタリバン台頭などにより、パキスタンの伝統音楽は衰退。
 演奏家たちは転職を余儀なくされたが、音楽を愛する気持ちと、父や叔父から受け継いだ文化を守りたいという思いから、密かに演奏技術を磨き続けていた。
 演奏家であることが周囲に知られると蔑まれる。精神的にも経済的にも報われることのない日々。
 国内に発表の場はない。

 それではとYouTubeで世界に向けて発信したところ大ヒット。
 ニューヨークに呼ばれてジャズミュージシャンのウィントン・マルサリスらと一緒に演奏することになる。

 しかし不慣れなこともあり、セッションはなかなか上手くいかない。
 ここの場面はけっこう不安だった。
 対立する文化の架け橋になりたい、父たちが残したものを伝えなければと気負えば気負うほど、演奏家たちはいつもの調子を失っていく。

 本番ではなかなか格好良い演奏になっていてホッとした。
 マルサリスが率いるビッグバンド以上に、その音楽は「ジャズ」である気がした。

 もしかしたら、
「ジャズ的なリズムやメロディーを持った音楽」
 ではなくて、
「虐げられた者の悲しみや、ささやかな喜びがこもった音楽」
 を「ジャズ」と感じるのかもしれない。

 世界に認められたことでようやく「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」はパキスタン国内でも演奏会を開けるようになった。
 苦境にあっても練習をやめなかった彼らに拍手を。


 
posted by 柳屋文芸堂 at 16:29| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年09月07日

映画「秒速5センチメートル」感想



 作中で少年から大人になってゆく貴樹についての3つの物語。

 第1話「桜花抄」は、中学生の貴樹が好きな女の子に会いに、東京から栃木まで行く話。
 その子のことが大好きで、会いたくて、思いは胸にぱんぱんに膨らんで、でも約束の日、折悪しく関東は大雪に。
 遅れる電車。止まる電車。ずいぶん来たと思っても久喜駅で、まだそこ埼玉だよ!!
 栃木が冥王星みたいに遠く感じられ、数分が数時間に伸びてゆく。新海マジック。

 新海監督は「距離」と「時間」と「思い」の描き方が、本当に上手い。
 時速200キロメートルの乗り物と、時速100キロメートルの乗り物、1時間後に着いている場所は100キロメートル違うのだけれど、乗っている人間にとっては「1時間移動した場所」という感覚が最も強く残る。
 その1時間も、仲間とわいわい楽しくしていればあっという間だろうし、好きな人を寒い中で待たせているとなれば(私も経験がある)1分1秒が苦行のように体に刺さる。

 東京の中学生にとっての、栃木の遠さ。
 雪でダイヤが乱れた電車の不確かな速度。
 好きな人に会いたい気持ち。好きな人を待たせている痛み。

 観ている側も貴樹と共に、歪む距離、延びる時間、膨らむ思いをまざまざと体験することになる。
 切ない! 切ないよ!!

 第2話「コスモナウト」は高校生の貴樹に片思いする花苗のお話。
 貴樹はいつも栃木の女の子のことを考えているので、花苗の恋は上手くいかない。
 しかしそれ以上に、花苗が恋だけではなく「自分の進路も決められない」という部分が非常に切実で良かった。

 世の中のことも、自分のことも全然分からないのに、大人たちは決断しろと迫る。
 あやふやな今の自分の決めたことが、自分の人生を方向付けてしまうことを知っている。
 その責任の重さ。どこにいても心にのしかかる不安。
 高校時代の苦しさが鮮やかに蘇るし、この辛さはどの時代の高校生も変わらず味わうものだろう。

 恋と進路で悩んで暗い話になるかと思いきや、舞台が鹿児島県の種子島で、花苗はサーフィンをするから画面は明るく、これから美しく咲く花のつぼみのような前向きさが感じられた。

 第3話「秒速5センチメートル」は大人になった貴樹の話。
 栃木の女の子とは途中で上手くいかなくなってしまったようで、しかし他の女性をきちんと愛することも出来ない。
 東京で忙しく働きながら、ずっと誰かを探している。

 主題歌はみんな大好き、山崎まさよし「One more time, One more chance」
 この曲で探されている人はもう亡くなっていると私は考えているのだけど、相手は生きている、でも自分のものにはならない、というのは亡くなっているよりしんどいことなのかもしれない。
 会えないことを死のせいに出来ない。
 自分の間違いや未熟さを常に突きつけられる。

 「君の名は。」はこの第3話で描かれる喪失を救済するような話なので、古くからのファンが叫び声を上げた理由がよく分かった。
 「秒速5センチメートル」の方が現実的。
 でも人によるよね。私の人生は割と「君の名は。」に近いと思う。
 運命の人を見逃さなかった。
 「秒速5センチメートル」になっちゃった人は、来世に期待だ。
 まだ前前世なんだよ、きっと。

 新海監督作品の私小説的な部分、本当に素晴らしいと思う。
 「君の名は。」の脇役テッシーに説得力があるのは、それまでの「思春期描写の積み上げ」があってのことなんだなと。

 あと新海誠が色彩設計をすると、画面が本当に綺麗。
 今後、どうしても大きなプロジェクトになって、新海誠が色彩設計を全部やる訳にはいかなくなるだろう(「君の名は。」では別の人が担当している)
 その点でも貴重な作品だと思う。

 青春の甘酸っぱさ、切なさ、苦しさを思い出したくなったらぜひどうぞ。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 12:24| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年08月31日

映画「築地ワンダーランド」感想



 仲卸(卸会社から仕入れた品物を、市場内の店舗で販売する人たち)を中心に、彼らから海産物を買う料理人、マグロやウニの競りの様子などを追ったドキュメンタリー。

 築地の研究をしているアメリカの文化人類学者、テオドル・ベスターの視点で進んでゆく。
 外国人が語ることで、知らない国の不思議な光景を紹介しているように感じられるのが面白い。
 身近な東京にあるせいで分かっているような気になるが、築地は特殊で特別な場所なのだ。

 消費者が魚を、生で(←ここがポイント!)美味しく食べるために存在する、世界最大のシステム。
 魚市場は世界中にある。しかし生で食べることを基準にして動いているのは日本の市場だけだろう。

 築地市場で最も重視されているのは金儲けではない。
「商品である魚を、最高の状態でお客さんの口元まで届け、美味しく味わってもらうこと」
 寿司職人などの料理人がより良い食材を探す場所であるだけでなく、仲卸は自分の店の品物を最大限活かしてくれる人を捜し求めているように見える。

 フランス出身のシェフ、リオネル・ベカは言う。
「仲卸の人たちはほぼ全員お店に食べに来てくれた。
 僕たちがどんな仕事をしているか理解するためにわざわざ来たのだ」

 豊洲移転問題で腹を立てている人も多いと思う。
 映画ではそのことには触れず、湿っぽくならず、築地で働く人々の日々を坦々と見せているのが良かった。

 あと、拾得物掲示板の「しいたけ」「なす」に笑った。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 18:21| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年08月25日

映画「星を追う子ども」感想

 新海誠監督のファンタジー作品。
 ジブリっぽいところは思わず笑っちゃうんですが(ごめん)色彩が美しい自然の風景、光と影の効果的な使い方、やや観念的なセリフ、運命の人を求める恋愛、遠いどこかに焦がれる気持ちなどは、唯一無二の新海誠の世界。

 大切な者の死をどう受け入れるかの物語で、いくつもの死が描かれる。
 それはただ観客を悲しませるためにあるのではなく、心で考えさせるような場面になっており、私も家族のこれまでの死・これからの死を思いながら見た。

 「君の名は。」は「とりかえばや物語」と「古今和歌集」の小野小町の歌が元になっていましたが、なんと今回は、古事記!!
 死者に会えるという地下世界が舞台なのです。
 イザナミは黄泉の国の食べ物を食べてしまったために地上に戻れなくなったので、主人公が地下世界の芋を食い始めた時には、
「大丈夫かー?!」
 とメチャクチャ心配になりました。

 神話や民話など、長く伝えられてきた物語には強い力がある。
 私も遠慮せず取り入れていきたい。
 ジブリは、ちょっと、早過ぎたんだ。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 18:10| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年08月22日

映画「パルプ・フィクション」感想

 主題曲の「Misirlou」が格好良いな〜 と前から思っていたので見てみました。



 不思議な映画だった。
「そんなことしたら危ないよ! 死んじゃうよ!」
 とハラハラさせる人は死ななくて、
「えっ、そこで?!」
 と驚くような場所でサクサクっと重要な人物が死んだりする。

 時間の流れの編集が凝っており(単純に過去→未来とは進まない)最初に見た時にはよく分からなかった部分が、二回目で意味が分かってプッと笑ったり。
 意図的に徹底的に馬鹿馬鹿しい話を積み上げていて、ブッチの金時計の来歴が特に可笑しかった。
 そんなくだらないものに対して真剣になるブッチの様子も。

 色んなことが起こるのだけど、バタバタした感じはしない。
 最近の映画は上映時間を短くするためにエピソード一つ一つを出来る限り詰めたようなのが多くて、これくらいのゆったり感が許される世界であって欲しいなぁと思った。
 何かが起きる瞬間だけでなく、何も起きない間の動きも、映画にとっては大事な気がするんだ。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 19:28| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年08月07日

映画「ほしのこえ」感想

 新海誠監督の初期作品。
 これを一人で作ったという点に狂気を感じる。

 登場人物の顔があまり上手くない・戦闘シーンが迫力に欠ける等々ツッコミどころは沢山ある。
 しかし日常を当たり前のものとはせず、そこで触れる風景や自然現象を慈しむように描いているのは「言の葉の庭」「君の名は。」と全く同じ。
 ちゃんと美しい。

 恋し合う男女の隔て方に「君の名は。」と共通する部分があり、もうこの頃に種はあったんだ〜 と感心した。

 三作見て、新海監督は自分が最も得意な、他にない要素をしっかり伸ばしていったのだと、よく分かった。
 私も(才能の規模が全然違うけど)見習いたい。


 
posted by 柳屋文芸堂 at 13:24| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年08月05日

映画「言の葉の庭」感想

 新海誠監督の2013年公開作品。
 「君の名は。」が好みに合っていたので、過去作でがっかりしたらどうしよう、と心配していたのだけど、これはこれでステキな作品で良かった。
 小説家にたとえるなら、エンターテインメント作家の初期の純文学作品を読んだような気持ち。

 雨の日の不愉快さと美しさ、空気の湿り気、影の濃さ。
 憧れの女性の足の指に触れるエロス。

 どう考えても万人受けしなさそうな世界で、この次の作品が「君の名は。」ってすごいなぁ。
 共通点は色々あるのに、見ている人の心の揺れ方がずいぶん違うよね。
 どちらが良い悪いではなくて「言の葉の庭」は繊細、「君の名は。」は大胆。
 「言の葉の庭」の方が好き、という人もきっといると思うな。

 舞台が新宿御苑だったのが嬉しかった!
 結婚前にDちゃんとデートしたよ〜
 映画も恋も、特別ではない場所を特別に思うようになるんだね。


 
posted by 柳屋文芸堂 at 16:24| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年08月02日

映画「君の名は。」感想

 ようやく見られたよ〜♪
 映画館でやっている内にDちゃんと一緒に見たかったのだけど断られちゃって、何となく一人で行くのも寂しく、借りられるようになるのを待っていたのでした。

 大ヒット作なので内容についてあちこちで見聞きすることが多く、でも一番肝心な部分は知らなかったから、
「えっ? あっ! そういうことだったのか!!」
 と楽しむことが出来ました。事前にネタバレに触れないの大事ですね。

 私が最も心打たれたのは、東京という街が非常に美しく描かれていたこと。
 まるで震災か何かで東京が壊滅して、失われてしまった風景を懐かしく思い出しているよう。

 母が生まれ育って、Dちゃんといっぱい歩いた東京が、私は大好きなんだなぁ。
 そんなことを改めて感じた。

 実際に行ったことのある場所も沢山出て来て、うぉぉ、となったのはバスタ新宿!!
 よくあれ間に合ったね。映画公開の少し前まで工事現場だったと思うんだが。
 国立新美術館のカフェもミュシャ展の時にDちゃんと入ったよ!

 泣いたのは、サヤちんが放送で避難して欲しい地区の名前を読み上げる場面。
 災害が起きると、全然知らない土地の名前が次々とニュースで流れる。
 あの人たちもこんな風に助けられたら良かったのに、という祈りのようで、自然と涙がこぼれた。

 忘れたくない「君の名」は、瀧にとっての三葉、三葉にとっての瀧であると同時に、人生の中で出会ったり知ったりすることになる、あらゆる人の名前でもある気がする。
 見た後で、人や場所が愛おしくなる映画だった。

posted by 柳屋文芸堂 at 10:46| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年07月21日

映画「最強のふたり」感想

 これもちょっと合わなくてなー
 フィリップは首から下が動かなくなったことで男としての自信をなくし、だからこそ自分を障害者としてではなく「男の欲望を持った者」として扱うドリスに心を開く。
 そういう男のプライドの描き方は興味深く、面白かった。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:57| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

映画「天然コケッコー」感想

 私にはいまいち合わない映画だった。
 メインとなる少年・少女の恋が、不器用な恋なんだろうけど、不自然な恋に見えてしまって。
 やりたいことは分かる。でも、なんかー! と不満が残った。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:44| 映画・映像 | 更新情報をチェックする