2017年05月17日

映画クレヨンしんちゃん「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」感想

 子供の頃に憧れていた世界を体験させてくれる「20世紀博」に夢中になる大人たち。
 街には人目もはばからず子供のような遊びをする大人たちがあふれる。
 ついには仕事や育児など大人がやらなければいけないことを放棄して、大人たちは消えてしまい……

 映画クレヨンしんちゃん「ヘンダーランドの大冒険」の感想(これ)で、子供向けの作品は安全でなければいけない、というようなことを書いたが、この作品、安全か……?

 見ている間、私はすごく怖かった。
 敵であるケンとチャコが作った、人のあふれる昔風の商店街を見て、
「この世界の方が良いかも」
 と思ってしまったのだ。

 暴力ではなく、郷愁によって服従させられることがあるなんて、知らなかった。
 いや、意識していなかっただけで、「懐かしさ」に負けてしまったことが、これまでにも沢山、あったのかもしれない。

 子供というのは存外自立心が強く、大人をあてにしていないものだから、子供だけ残される場面は不安より楽しさが勝り、ワクワク見られる気もする。
 子供にとっては安全で、大人にとっては容赦ない物語だ。

 私は何故か、三島由紀夫が死ぬ前にした演説を思い出していた。
 自殺する人は、未来へ行くことをやめてしまうんだ…… と考えていたら、あのラスト!
 お前こそズルいぞ、しんのすけ!
 ボロ泣きしちゃったじゃないか〜

 子供の頃に想像していたほど輝かしくない未来(=現在)で、クサい臭いのするおじさん・おばさんとして生きていくこと。
 逃れがたい失望感と、それでも「自分で手に入れた」と誇れるちっぽけな幸福。

 年を取ると懐かしく感じるものが増えていって、懐かしさに絡め取られて前に進めなくなる可能性がどんどん高くなってゆくのだ……気を付けなければ。

 東京の現状を考慮していないオリンピックの計画も、現在から目をそらし、美しい過去の再来を夢見ているようで、オトナ帝国の逆襲は何度でも繰り返されるのかもしれない。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 00:31| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年05月12日

映画クレヨンしんちゃん「ヘンダーランドの大冒険」感想

 遠足で行った群馬のヘンダーランドで、魔女の一味との戦いに巻き込まれる、という冒険ファンタジー。
 想像していた以上に真っ当な子供向け映画で、
「クレヨンしんちゃんってこんな感じなのか〜」
 と感心した。

 子供向け、というのは幼稚・安易という意味ではない。
 子供向けの作品が最も大切にしなければいけないのは、
「安全であること」
 だと思う。

 物語の中では恐ろしいことが起こる。
 しかしその恐怖は、
「観客(子供たち)を傷付けるようなものであってはならない」

 時に物語は、本当に心を傷付けてしまうことがある。
 子供向けの物語は、暴走して脱線する電車ではなく、整備されて安全の保証されたジェットコースターでないと。
 精神的に弱って児童書ばかり読んでいた時期があったので、安全であることがどれほど大事かよく分かる。

 戦って欲しいとお願いされたしんちゃんは葛藤する。
 魔女の魔法にだまされるし、苦しみもある。
 しかし可愛い妖精のようなからくり人形トッペマはしんちゃんを何度も助けてくれるし、父のひろしと母のみさえ、それにアクション仮面たちが味方になって一緒に戦ってくれる。
 危険はあるが、危険よりずっと大きな安心が用意されている。

 オカマ魔女の様式美が素晴らしくて。
 こういうオカマの描き方って、今ではもう許されないんだろうなぁ……
 オカマの文化を守るにはどうすれば良いんだ……!

 しんちゃんが正義のために一直線に頑張ったりせず、すぐ横道にそれるところが、話に緩急をつけていて良い。
 クレヨンしんちゃんを見慣れている人には当たり前なんでしょうけど、私はあまり知らないので新鮮だった。
 ぶりぶりざえもんは寝返ってばかりいるし。

 時々出てくる埼玉・群馬ネタが可笑しかった。
 蓮田サービスエリアとか。
 東武線にも馴染みがあるから嬉しくて。
 桐生線に乗り換えて、って本当にヘンダーランドに行けちゃいそう。

 弱っていた頃の私でも、この映画なら見られたかもしれない、と思った。
 もちろん家事をしながら見た元気な私も、気持ち良く楽しめた。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 00:49| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年03月11日

映画「フラガール」感想

 舞台は昭和40年の福島県いわき市常磐地区。
 石油の時代になっても変わることが出来ない炭鉱の人々と、変化を受け入れて生き抜く方法を見つけようとする人々、それぞれの苦しみが丁寧に描かれている。
 途中の展開はベタ過ぎてう〜んという感じだったけど、松雪泰子と蒼井優のダンスはすごく良かった。
 生身の肉体だけが表現出来る「何か」が伝わってきて、実写映画の醍醐味はこういう部分だよな〜と思った。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 22:31| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年03月08日

映画「花とアリス殺人事件」感想



 中学生の頃の、心の過剰な部分を平気で人前に出してしまう感じとか、女の子(同性)の近さ、男の子(異性)の遠さとか、企みがうまく進まないところとか、その中でふと拾う「ちょっとだけ素敵な瞬間」とか、沢山覚えていたはずの、でも普段は心の奥底に沈んでいる気持ちを次々刺激されて、切なく楽しかった。

 「花とアリス」も見ているので、つながりが嬉しい。
 おっとりしていて優しい風子ちゃん。
 愛情の示し方が毎回間違っている花。

 花の「好き」という気持ちはいつもすごく強いのだけど(だからこそ?)その出し方が変なんだよね。
 けっこうな策士で、でも策略が微妙に雑で。
 その不器用さは若い頃の自分を思い出させる。

 ささやかな出来事を描いた、それほど長くない物語。
 それでも、ありきたりな感動とは違うものが得られて充実感がありました。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 13:07| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年02月14日

「LOVE〜写真家レスリー・キーの世界」感想

 下の記事に書いたような部分があって、撮影や編集の工夫でもう少し深みのある作品に出来たんじゃないかと残念に感じた。
 映画ではなくどこかで放送された番組だったみたいだから、仕方ないのかなぁ。

 若い頃に働いていたシンガポールの日系企業で日本文化に憧れ、山口小夜子に見出されたというレスリー・キーの経歴は面白いと思った。
 またどこかで写真を見る機会もあるかもしれないから、名前を覚えておこう。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 15:41| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

映像作品を見ていて時々気になること

 言葉で説明し過ぎている映像作品、というのが時々ある。
 たとえば、
「彼は人を虜にする話術を持っている」
 とナレーターが入れちゃったりするの。
 映像なんだから、その彼が話術で人を虜にしている「場面」を実際に見せないとダメだろう。

 小説を書く時によく言われる「説明しないで描写しろ」というのはこういうことか。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 15:15| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年02月13日

映画「ファッションが教えてくれること」感想

 雑誌「VOGUE(アメリカ版)」の編集長、アナ・ウィンターのドキュメンタリー。
 プラダを着た悪魔、のモデルらしいです(今度そっちの映画も見てみよう)

 何より印象に残るのはアナのファッション。
 けっこう年配なのに(撮影時に60歳くらいかな)どの服も可愛くてピシッ!と似合っている。
 雑誌のモデルが着ている服が霞んでしまうくらい、彼女の服は全部素敵だった。

 アナと対比するように登場するのが、クリエイティブディレクターのグレース。
 「美しさ」を何より大切にし、少々懐古主義的なところがあるグレース。
 彼女が丹誠込めて仕上げた誌面を、アナはザクザクとボツにしていく。

 私が共感したのはグレースだけど、売れる雑誌を作るためには、退屈なものを切り捨てていくアナの力が必要なんだろうな。

 流行という不確かなものを相手に戦い続ける恐ろしさ。
 「美」という変わらぬ価値を生み出しているという自信。
 すごく遠くて、すごく近いから、私はファッションに憧れる。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 15:28| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年02月01日

映画「アトムの足音が聞こえる」感想



 アニメ「鉄腕アトム」の音響効果を担当していた大野松雄のドキュメンタリー。
 アトムが歩いたり、飛んだりする時の音を作り出した人。

 文章で書くと分かりにくいけど、聞けばすぐ、
「あー! これね」
 となるはず。よく知られた音だ。

 最初、大野松雄不在のまま、大野をよく知る音響関係者たちへのインタビューが続く。
 大野はもうこの世にいないのか?
 少なくとも同じ職場で働き続けているわけではないらしい。

 大野松雄のその後が明らかになった瞬間、背中がゾクッとした。
 この人は本質的なことしかやらないし、やれない。
 嘘臭い場所からは自然と離れ、音の根源に引っ張られてゆく人生なのだと思った。

 あれこれ要求してくる手塚治虫に向かって、
「おたくは映画に関してはど素人だ。素人は黙っててくれ」
 ときっぱり断った話とか、なかなか凄かったですね。
 頑固な天才たちの戦い。

 音響職人の技と、芸術家の生き方。
 一本で二つの映画を見たような満足感でした。

 そうそう、途中でレイ・ハラカミが出てきます。
 彼の元気な姿が見たい、という方もぜひどうぞ。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 16:51| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年01月30日

映画「世界一美しい本を作る男―シュタイデルとの旅―」感想



 ドイツにある小さな出版社「シュタイデル社」のドキュメンタリー。
 写真集に力を入れているようですが、ギュンター・グラスの小説なども出しているようです。

 作り手の意図に合った本にするために話し合いを重ね、紙や印刷方法、判型を決めてゆき、納得のいく色が出るまで何度も試し刷りをする。
 規模は違っても同人誌作りで同じようなことをするので、その感覚はよく分かる。

 私は本作りがあまり好きではなく、考えているうちに飽きてしまい、
「ま、これくらいでいっか」
 と適当なところで工夫するのをやめてしまう。

 シュタイデルさんは絶対そんなことしない。
 こういう紙がある、こういう装丁の案がある、見てくれ選んでくれと本の作者にどんどん迫る。
 中途半端な本になんてするものかという強い意志がみなぎっている。

 見ていて感心したのは、何もかもを上質なものにする訳ではないところ。
 安くするための提案もするし、わざと下品なデザインの紙を使って効果を出したりもする。
 何より大事なのは「物としての本」が「本の中身」をきちんと表現出来ているかどうか。

 私も同人誌を作る時に、シュタイデルさんの本への愛情を思い出すようにしたい。
 しかしシュタイデルさんにも負けない本作り狂がわんさかいる同人誌の世界ってとんでもないよね……
 
posted by 柳屋文芸堂 at 17:01| 映画・映像 | 更新情報をチェックする

2017年01月27日

映画「ヴィダル・サスーン」感想

 偉い人のことを偉い偉いと褒め称えるドキュメンタリー映画が時々ある。
 これもそんな感じだった。
 言葉で偉いすごいと言うのではなく、
「○○を△△にしたから偉い」
 ということを映像で見せて欲しかった。
 特にビフォアの○○をしっかり示さないから、ヴィダル・サスーンの革新性がくっきりと見えてこない。
 △△が当たり前になった世界で「△△はすごい」って言われてもねえ。
 ファッション史の映画としてもう少し面白く作れたような気がして残念。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 16:44| 映画・映像 | 更新情報をチェックする