この間、ラジオからスターウォーズのメインテーマが流れてきた。
(NHK-FMの音楽遊覧飛行)
私はこの曲を聴くと、高校の時に好きだったM先輩を思い出すのだ。
M先輩は、いつも髪振り乱して楽器(パーカッション)の練習に没頭していた。
第一印象は「吹奏楽オタク」
楽器以外のものに視線を向けるのかさえ分からなかった。
私はコントラバス担当だったのだけど、入部後すぐの定期演奏会は、パーカッションで出ることになった。
ギロやマラカスなど、間違っても問題にならないような「にぎやかし役」のつもりだったのに、何故か映画音楽メドレーではトライアングルを鳴らすことになった。
この曲はスターウォーズのメインテーマで始まる。
初っ端にトライアングルの「リリリリリリ……!」って大きな音が入るの、分かります?
昔の電話のベルみたいな。
にぎやかし役がやるには、ちょっと重要過ぎる。
こりゃ失敗出来ないな、とは思ったものの、私は楽器演奏の場であがったりしない。
和太鼓を習っていたから、舞台に慣れているのである。
しかしM先輩は新入生の私をとても気遣ってくれた。
「柳田さん、緊張しなくていいからね」
長い前髪を両手でかき分け、こちらをまっすぐ見る。
そこには驚くほど綺麗な瞳があった。
くりんと大きく、少し潤んでいて、女の子みたいに可愛らしい。
全然興味のなかった先輩が、キラキラ光って見えた。
トライアングルの高い音が頭の中で響く。
恋の始まりを告げるように。
2012年06月24日
スターウォーズのトライアングル
posted by 柳屋文芸堂 at 23:08| 思い出
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2012年05月16日
音は周波数が小さくなるほど低くなります
私の声は、女にしてはかなり低い。
大学で、自分の声の周波数を計測する物理実験があった。
確かオシロスコープという実験機器の使い方を覚えるのが目的だったと思う。
「あ〜」
と発声して波形を画面に出し、方眼紙に写す。
そこから周波数を計算して提出すると、先生は渋い顔をした。
「おかしいですね。間違ってますよ」
「えー どこがいけないんだろう」
「女性の声がこんなに低い訳がない。1オクターブくらい違ってますよ」
計測はきちんとやれていたし、計算の間違いもないのだ。
おかしい、おかしくない、と押し問答を繰り返していると、同じクラスのHくんがやって来た。
「先生、その周波数は間違ってないと思います。
柳田さんの声を聴いて、僕は実験室にダークダックスが来たのかと思いました」
その言葉で、先生はしぶしぶ私のレポートを認めてくれたのでした。
なんて親切なHくん。
何度思い出しても、座布団1枚あげたくなるよ。
大学で、自分の声の周波数を計測する物理実験があった。
確かオシロスコープという実験機器の使い方を覚えるのが目的だったと思う。
「あ〜」
と発声して波形を画面に出し、方眼紙に写す。
そこから周波数を計算して提出すると、先生は渋い顔をした。
「おかしいですね。間違ってますよ」
「えー どこがいけないんだろう」
「女性の声がこんなに低い訳がない。1オクターブくらい違ってますよ」
計測はきちんとやれていたし、計算の間違いもないのだ。
おかしい、おかしくない、と押し問答を繰り返していると、同じクラスのHくんがやって来た。
「先生、その周波数は間違ってないと思います。
柳田さんの声を聴いて、僕は実験室にダークダックスが来たのかと思いました」
その言葉で、先生はしぶしぶ私のレポートを認めてくれたのでした。
なんて親切なHくん。
何度思い出しても、座布団1枚あげたくなるよ。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:03| 思い出
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2012年05月15日
東京ドーム1個分
私の通っていた大学は、後楽園駅のすぐそばにある。
一年生の時は水道橋駅を使っていたので、毎日、東京ドームの横を通った。
(水道橋駅→東京ドーム→後楽園駅→大学 で徒歩15分くらいかな)
東京ドームは、裏側にも通路があるのをご存知ですか。
表の広場みたいな道ではなく、小石川後楽園に接している方。
細くて人があまりいないので、彼氏(Dちゃんではない)と歩く時はよくそちらを選んだ。
途中で体を触られたり、抱き合ったり、それをクラスの男子に目撃されたり。
若いねぇ。
そんな風に仲良しだった彼氏との関係も、秋の終わりくらいからだんだん雲行きが怪しくなってきた。
些細なことですぐ喧嘩になるのだ。
季節はもう冬だったと思う。
後楽園の駅ビルに入っているマクドナルドで、彼氏は私の「食べ方が気に食わない」と文句を言い始めた。
確かに私の食事の仕方は全然上品じゃない。
いったいどんな食べ方をしたら納得してもらえるのだろう。
なるべく口を大きく開けないようにしたり、あまりもぐもぐしないよう気を付けたり。
そのうち食べ物の味がよく分からなくなってきた。
私はその場にいるのに耐えられなくなり、彼氏がゴミを捨てに行っている隙に走り出した。
とりあえず水道橋駅へ。
裏道に行く理由もないので、表の道をひた走る。
その日、東京ドームは閑散としていた。
邪魔するものは何もないので全力疾走。
勝手に涙がポロポロこぼれて、気が付くとエーンエーンと大声上げて泣いていた。
彼氏は私を追いかけてきてつかまえた。
一人で帰ってしまうつもりだったのに。
幼稚園児みたいになっている自分がひどくみじめだった。
なんで私たちは一緒にいるんだろう?
「▲▲はどうして私を好きになったの」
「のりちゃんと一緒にいたら楽しいだろうな、って思ったから」
東京ドーム半周を泣きながら全力疾走するなんて、なかなか楽しい女じゃないか!
と思えるのは別れて18年経った今だから。
こんな泣いてばかりの女と一緒にいても全然楽しくないよね。
文句を言う彼氏が悪いのか、文句を言われてしまう私が悪いのか、ついに最後まで分からなかったけど。
「東京ドーム○○個分」
という言い回しを聞くたびに、私は微笑んでしまう。
それ得意。ばっちり分かる。
裏の道も表の道も、ちゃんと体で測ったからね。
一年生の時は水道橋駅を使っていたので、毎日、東京ドームの横を通った。
(水道橋駅→東京ドーム→後楽園駅→大学 で徒歩15分くらいかな)
東京ドームは、裏側にも通路があるのをご存知ですか。
表の広場みたいな道ではなく、小石川後楽園に接している方。
細くて人があまりいないので、彼氏(Dちゃんではない)と歩く時はよくそちらを選んだ。
途中で体を触られたり、抱き合ったり、それをクラスの男子に目撃されたり。
若いねぇ。
そんな風に仲良しだった彼氏との関係も、秋の終わりくらいからだんだん雲行きが怪しくなってきた。
些細なことですぐ喧嘩になるのだ。
季節はもう冬だったと思う。
後楽園の駅ビルに入っているマクドナルドで、彼氏は私の「食べ方が気に食わない」と文句を言い始めた。
確かに私の食事の仕方は全然上品じゃない。
いったいどんな食べ方をしたら納得してもらえるのだろう。
なるべく口を大きく開けないようにしたり、あまりもぐもぐしないよう気を付けたり。
そのうち食べ物の味がよく分からなくなってきた。
私はその場にいるのに耐えられなくなり、彼氏がゴミを捨てに行っている隙に走り出した。
とりあえず水道橋駅へ。
裏道に行く理由もないので、表の道をひた走る。
その日、東京ドームは閑散としていた。
邪魔するものは何もないので全力疾走。
勝手に涙がポロポロこぼれて、気が付くとエーンエーンと大声上げて泣いていた。
彼氏は私を追いかけてきてつかまえた。
一人で帰ってしまうつもりだったのに。
幼稚園児みたいになっている自分がひどくみじめだった。
なんで私たちは一緒にいるんだろう?
「▲▲はどうして私を好きになったの」
「のりちゃんと一緒にいたら楽しいだろうな、って思ったから」
東京ドーム半周を泣きながら全力疾走するなんて、なかなか楽しい女じゃないか!
と思えるのは別れて18年経った今だから。
こんな泣いてばかりの女と一緒にいても全然楽しくないよね。
文句を言う彼氏が悪いのか、文句を言われてしまう私が悪いのか、ついに最後まで分からなかったけど。
「東京ドーム○○個分」
という言い回しを聞くたびに、私は微笑んでしまう。
それ得意。ばっちり分かる。
裏の道も表の道も、ちゃんと体で測ったからね。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:43| 思い出
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2012年03月16日
小泉元首相そっくりのおばあさん
伯母(小)の最後の入院の時の話。
救急車で運ばれた伯母(小)は、とりあえず大部屋に入ることになった。
伯母(小)は耳が遠いので、どうしても大きな声で話しかけなければいけない。
他の患者さんに迷惑をかけてしまうな…… と心配していた。
しかし、私たちの会話なんて問題にならないほど、やかましい人たちがいた。
おばあさんと、息子。
息子はおばあさんの夕食の介助をしているのだが、うまく食べられないのに腹を立てて怒鳴っている。
「あーあ、余計なことばっかりして!」
おばあさんの方を見ると、小泉元首相そっくりで驚いた。
眼光鋭く、息子に怒られてしょぼくれるようなタイプではない。
何を言われても悠然としており、だからまた息子が怒鳴る。
彼らがうるさかったおかげで、周囲を気にせず伯母(小)との最後の会話をすることが出来た。
(といっても、もうほとんど話せなかったのだが)
翌朝、急変の知らせを受けて病院へ。
伯母(小)は個室に移されていた。
別室で医者から説明を受けたり、酔っぱらい母に電話したり、病室で伯母(小)の手を握ったり、けっこう病院内を移動した(詳細はこちら)
ふと見ると、昨日の小泉ばあさんと息子がナースステーションの前の椅子に座っている。
息子は相変わらず大声を上げていて、おばあさんはうさぎのぬいぐるみを握っていた。
おばあさんとぬいぐるみ。
可愛らしくも切ない光景になるはずが、何故か全然そうなってない。
何しろおばあさんは小泉元首相そっくりなのである。
そして握り方が強く、ギリギリギリとぬいぐるみに指が食い込んでいる。
おばあさんはうさぎの目を鋭く見つめ、人差し指をサッと息子に向けた。
「行け!」
唸るような低い声。
あのおばあさん、息子にぬいぐるみをけしかけようとしてる……!
こんなにしょっちゅう見舞いに来るということは、仲が悪い訳ではないはず。
母と息子の間にある愛憎が、妙に可笑しい。
こんなことがあってね、と伯母(小)にも話したかったがすでに昏睡状態で、そのまま亡くなってしまった。
数日後、伯母(小)の入院費の精算のために再び病院を訪れると、出口近くに小泉ばあさんと息子がいた。
おばあさんは可愛い夏服を着て、大きな帽子をかぶっている(※7月の話)
退院するのだ。
回復して良かったですね。
なるべく長く、お元気で。
私は心の中だけで呼びかけた。
息子は今日は怒鳴っていない。
おばあさんの横で静かに座っている。
救急車で運ばれた伯母(小)は、とりあえず大部屋に入ることになった。
伯母(小)は耳が遠いので、どうしても大きな声で話しかけなければいけない。
他の患者さんに迷惑をかけてしまうな…… と心配していた。
しかし、私たちの会話なんて問題にならないほど、やかましい人たちがいた。
おばあさんと、息子。
息子はおばあさんの夕食の介助をしているのだが、うまく食べられないのに腹を立てて怒鳴っている。
「あーあ、余計なことばっかりして!」
おばあさんの方を見ると、小泉元首相そっくりで驚いた。
眼光鋭く、息子に怒られてしょぼくれるようなタイプではない。
何を言われても悠然としており、だからまた息子が怒鳴る。
彼らがうるさかったおかげで、周囲を気にせず伯母(小)との最後の会話をすることが出来た。
(といっても、もうほとんど話せなかったのだが)
翌朝、急変の知らせを受けて病院へ。
伯母(小)は個室に移されていた。
別室で医者から説明を受けたり、酔っぱらい母に電話したり、病室で伯母(小)の手を握ったり、けっこう病院内を移動した(詳細はこちら)
ふと見ると、昨日の小泉ばあさんと息子がナースステーションの前の椅子に座っている。
息子は相変わらず大声を上げていて、おばあさんはうさぎのぬいぐるみを握っていた。
おばあさんとぬいぐるみ。
可愛らしくも切ない光景になるはずが、何故か全然そうなってない。
何しろおばあさんは小泉元首相そっくりなのである。
そして握り方が強く、ギリギリギリとぬいぐるみに指が食い込んでいる。
おばあさんはうさぎの目を鋭く見つめ、人差し指をサッと息子に向けた。
「行け!」
唸るような低い声。
あのおばあさん、息子にぬいぐるみをけしかけようとしてる……!
こんなにしょっちゅう見舞いに来るということは、仲が悪い訳ではないはず。
母と息子の間にある愛憎が、妙に可笑しい。
こんなことがあってね、と伯母(小)にも話したかったがすでに昏睡状態で、そのまま亡くなってしまった。
数日後、伯母(小)の入院費の精算のために再び病院を訪れると、出口近くに小泉ばあさんと息子がいた。
おばあさんは可愛い夏服を着て、大きな帽子をかぶっている(※7月の話)
退院するのだ。
回復して良かったですね。
なるべく長く、お元気で。
私は心の中だけで呼びかけた。
息子は今日は怒鳴っていない。
おばあさんの横で静かに座っている。
posted by 柳屋文芸堂 at 00:30| 思い出
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2011年09月26日
伯母(小)の思い出
死んでしまった人の体は、もうこの世界に無い。
でも、思い出はいつまでも残しておくことが出来る。
油断していると忘れてしまいそうな、たわいない話を記録しておく。
伯母(小)はスーパーで買い物するのが大好きだった。
しかし最後の1年半は体力が無くなって自分では行けなくなり、仕方なく人に頼むことに。
「何でもいいよ」
と言いながら、注文がとんでもなく多い。
「のり子、良い豚肉の見分け方は分かるか」
「さあ……」
「赤い部分の多い肉が良い肉なんだよ」
「あー 脂が少ないのね」
「そんな肉はどこにも売ってないんだよ……」
「じゃあどうすればいいの!」
きっと私や母が買ってきた肉を見て、自分で選べないのを歯がゆく感じていたんだろうな。
伯母(小)は売り場の全てのパックをチェックしますからね。
さらに買い物が済んだ後もう一度売り場に戻って、自分の買ったものが最上だったか再確認しますからね。
あまりにも買い物に時間がかかるので、付き添う母は、
「もうやめてー!!」
と音を上げることがたびたびでした。
こういう小さな思い出を忘れてしまうのは、宝石を捨てるようなものだ。
誰も欲しがらないかもしれない、私だけの宝石。
でも、思い出はいつまでも残しておくことが出来る。
油断していると忘れてしまいそうな、たわいない話を記録しておく。
伯母(小)はスーパーで買い物するのが大好きだった。
しかし最後の1年半は体力が無くなって自分では行けなくなり、仕方なく人に頼むことに。
「何でもいいよ」
と言いながら、注文がとんでもなく多い。
「のり子、良い豚肉の見分け方は分かるか」
「さあ……」
「赤い部分の多い肉が良い肉なんだよ」
「あー 脂が少ないのね」
「そんな肉はどこにも売ってないんだよ……」
「じゃあどうすればいいの!」
きっと私や母が買ってきた肉を見て、自分で選べないのを歯がゆく感じていたんだろうな。
伯母(小)は売り場の全てのパックをチェックしますからね。
さらに買い物が済んだ後もう一度売り場に戻って、自分の買ったものが最上だったか再確認しますからね。
あまりにも買い物に時間がかかるので、付き添う母は、
「もうやめてー!!」
と音を上げることがたびたびでした。
こういう小さな思い出を忘れてしまうのは、宝石を捨てるようなものだ。
誰も欲しがらないかもしれない、私だけの宝石。
posted by 柳屋文芸堂 at 23:25| 思い出
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2011年01月24日
忘れないで欲しい
高校時代に好きだった、M先輩の話をしよう。
M先輩は同じ吹奏楽部で、パーカッションを担当していた。
今思うと本当に不思議なのだけれど、それは私にしてはびっくりするほど精神的な恋だった。
性欲は今以上に、バカみたいに、あったはずなのに。
M先輩をそういう欲望の対象とするのは、罪深いことのように感じていたのだ。
高校一年の六月に好きになって、次の年のバレンタインに告白した。
「今は女の子と付き合うことを考えられない」
と断られたのだが、私はショックというより変な気持ちだった。
付き合ってもらいたいなんて考えてなかったから。
希望はただ一つ。
私のことを忘れないで欲しかった。
大勢いる後輩の一人でいるよりは、告白をした方が記憶に残るはず。
必死だった。
私はコントラバスを担当していたので、音楽室で合奏がある時は、まず大急ぎで自分の楽器(ものすごくデカい)と専用の椅子(ものすごく重い)と譜面台を運び、その上で打楽器置き場に行き、
「手伝いますっ!」
告白するまで先輩は全く私の気持ちに気付かず、
「柳田は重い物を持つとアドレナリンが出るんだねぇ」
などとのんきに感心していた。
念願叶い、先輩とティンパニを運んだことがあった。
三階の音楽室まで二人きり。
勉強も生活も上手くいかず、不満だらけの高校時代、あの瞬間だけ周囲が輝いて見えた。
あんなに幸せな時間はなかった。
先輩は私のことを…… たぶん覚えていると思う。
結婚後にも年賀状を出したりしたから。
でもきっと、
「すごく変な後輩がいた」
みたいな記憶になっていて、告白のことは忘れているかもしれない。
急にばったり出会ったら、絶対今でもドキドキする。
M先輩は同じ吹奏楽部で、パーカッションを担当していた。
今思うと本当に不思議なのだけれど、それは私にしてはびっくりするほど精神的な恋だった。
性欲は今以上に、バカみたいに、あったはずなのに。
M先輩をそういう欲望の対象とするのは、罪深いことのように感じていたのだ。
高校一年の六月に好きになって、次の年のバレンタインに告白した。
「今は女の子と付き合うことを考えられない」
と断られたのだが、私はショックというより変な気持ちだった。
付き合ってもらいたいなんて考えてなかったから。
希望はただ一つ。
私のことを忘れないで欲しかった。
大勢いる後輩の一人でいるよりは、告白をした方が記憶に残るはず。
必死だった。
私はコントラバスを担当していたので、音楽室で合奏がある時は、まず大急ぎで自分の楽器(ものすごくデカい)と専用の椅子(ものすごく重い)と譜面台を運び、その上で打楽器置き場に行き、
「手伝いますっ!」
告白するまで先輩は全く私の気持ちに気付かず、
「柳田は重い物を持つとアドレナリンが出るんだねぇ」
などとのんきに感心していた。
念願叶い、先輩とティンパニを運んだことがあった。
三階の音楽室まで二人きり。
勉強も生活も上手くいかず、不満だらけの高校時代、あの瞬間だけ周囲が輝いて見えた。
あんなに幸せな時間はなかった。
先輩は私のことを…… たぶん覚えていると思う。
結婚後にも年賀状を出したりしたから。
でもきっと、
「すごく変な後輩がいた」
みたいな記憶になっていて、告白のことは忘れているかもしれない。
急にばったり出会ったら、絶対今でもドキドキする。
posted by 柳屋文芸堂 at 23:59| 思い出
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