2018年03月10日

熊本旅行記(4日目 江津湖など)

熊本旅行記(4日目 水前寺成趣園など)の続き)

 食後は江津湖の方に向かった。細長い湖で、小川の横を歩いていくと、だんだんそれが太くなり、大きくなる。



 成趣園と同様に水が綺麗だ。サギやカモなど、様々な種類の水鳥が見られる。靴べらのようなくちばしを持つ白い鳥が珍しかった(後で調べてみたところ、絶滅危惧種のクロツラヘラサギかもしれない!)





 風景を眺め、野鳥を観察しながら散歩するのは心安らぐ。



 木のように背の高い草がずらっと並んで枯れており、文明の滅んだ惑星に降り立った気分になった。あれはおそらく芭蕉だったのだろう。春には新しい芽が出て、夏にはホタルが見られるという。

 平日のせいか人は少なく、デートをするなら成趣園よりこちらの方が良さそうだ。誰も見ていないタイミングをねらってチューしたりするのも楽しそう。
 Dちゃんにねだってみようかとも思ったが、どうせ二人でホテルに泊まっているのだし、わざわざ外でしなくても、と考えてしまうところが夫婦だ。部屋の中で落ち着いてしよう。

 市電に乗り、
「また鶴屋に寄ってお土産を買おうか」
 とDちゃんに言ったら、
「どちらからいらしたんですか」
 と年配の女性に声をかけられた。

「埼玉です」
「そうですか。鶴屋の話をしていたから」
 と笑う。どうして鶴屋の話をしていたら声をかけるのか分からないが(もう他人ではないということなのか?)地元の人の意見を知るまたとないチャンスと思い、こちらからも質問してみた。

「街を歩いていても熊本弁を聞かないんですけど、みなさんあまり使わないんですか?」
「いや、子供叱る時なんかには使いますよ。『すーすっす!』とかね。でもテレビの影響で、だんだん使わなくなってきましたね」
「私、ヨシおっちゃんが好きで、ああいう熊本弁が聞きたかったんです」
「カツラかぶってる人ね」
「そうです」
「私もヨシおっちゃん好き」
 もっと話したかったが、鶴屋前の停留場に着いてしまい、大慌てでお礼を言って別れた。

「ヨシおっちゃんの話をし始めて、賭けに出たなとハラハラしたよ」
 とDちゃんが苦笑する。
「知ってて良かったねぇ」
 ヨシおっちゃんは熊本のケーブルテレビで活躍しているタレントさんだ。YouTubeで検索すれば、彼の熊本弁講座を見ることが出来る。熊本でどれくらい知られた存在なのか分からないが、話が通じて助かった。

 鶴屋でお菓子のお土産を買い、熊本城に向かった。地震後は城内のほとんどが立ち入り禁止になっているので、外側の石垣沿いの道を歩いた。この石垣は「長塀」と呼ばれ、国の重要文化財であるらしい。夕闇の中でしんと静かな石垣を眺めながら、ここで積み重ねられてきた月日を思った。

 城の隣にある「城彩苑」という観光施設で、母へのお土産を買った。透明なアクリルの中に、小さなくまモンが入っているキーホルダーだ。
「お母さんはきっとこういうのが好きだと思う」
 とDちゃんが選んでくれた。母は可愛らしいミニチュアに目がないのだ。

 夕飯は「勝烈亭」という店でとんかつ。



 Dちゃんが、
「この後、熊本ラーメンも食べようか」
 と高カロリーなことを言い出すので、ひれかつを一切れ分け与えた。二人とも無事まんぷくになり、そのままホテルへ戻った。

熊本旅行記(5日目 熊本市)に続く)
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2018年03月07日

熊本旅行記(4日目 水前寺成趣園など)

熊本旅行記(3日目 鶴屋百貨店など)の続き)

2018年2月16日
 朝食後、市電に乗って水前寺成趣園へ。丁寧に手入れされている、気持ちの良い日本庭園だ。着物姿で写真を撮っている中国人カップルなどもいて、微笑ましい。



 大きな池の周りをぐるりと一周する形なので、駒込の六義園を思い出した。東京の庭園との違いは、何と言ってもその透き通る水! 小さな魚が群れを成して泳いでおり、そのしらすのような姿(と言っても10センチくらいだと思う)が、底の方までくっきり見える。

 ぱらりと小雨が降ってきて、水面に波紋が広がった。



 まるで映画「言の葉の庭」みたいだ。脳内で主題歌の「Rain」がずっと流れていた。



 能楽殿を激写する私を、Dちゃんが遠くから激写していた。Dちゃんが撮る私の写真は、私への優しい視線が写っているようで好きだ。

 小さなカモがエサを獲る様子が可愛かった。普通のカモの四分の一くらいの大きさで、ぴょこんと水中に潜ると、急に動きが速くなる。





 正門前の参道では、大量の晩白柚(ばんぺいゆ)が売られていてびっくりした。晩白柚というのは巨大な柑橘類で、メロンとスイカの間くらいの大きさがある。初めて見た時には、そんなミカンがあることが信じられず、白昼夢だったのかな? としばらく思っていた。ここではその晩白柚が、六個入りで箱に入っていたりする。さすが名産地、と感心した。

 お昼は「CAFÉ LA PAIX」でカレー。チャツネ味の強い甘口だった。熊本にはずいぶん沢山おしゃれなカフェがあって驚く。東京ほど地価が高くないから、個人が起業しやすいのだろうか。何にせよ羨ましい。

熊本旅行記(4日目 江津湖など)に続く)
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2018年03月03日

熊本旅行記(3日目 鶴屋百貨店など)

熊本旅行記(3日目 橙書店など)の続き)

 歩きで熊本城の方向に戻り、リズムという喫茶店でエスプレッソプディングを食べた。音楽がテーマのお店らしく、プディングにも音符の形のクッキーが載っていて、可愛かった。

 熊本には「鶴屋」というデパートがある。我々はここで、パジャマやらハンカチやら「別に今ここで買わなくても良いのでは?」なものを購入した。足りなくなった訳ではない。普段Dちゃんが忙しくて出来ない買い物をしただけだ。
 鶴屋の紙袋にはゆるキャラ「つるッピー」の漫画が印刷されている。





 熊本城の形をしている「ひごまる」や、熊本城マラソンのマスコット「きよくま」など、熊本にはくまモン以外にもゆるキャラが大勢いて、みな熱心に働いている。

 夕飯は焼き鳥屋「ひょご鳥」へ。
 隣に座った女性二人は最初、標準語で話していたのだが、飲んで酔っていくにつれ、だんだん熊本弁になっていった! 耳を澄ますと「たいが」旦那への不満が溜まっていると言う。ひたすら愚痴だった。
 熊本弁というのは「本音」のための言葉なのかもしれない。だから「私」を出すべきではない公の場では、使われないのか。昼間、街を歩いているだけでは滅多に聞かない。



 Dちゃんはここの焼き鳥がいたく気に入ったようで、嬉しそうに食べているのを横で見ているのが幸せだった。そのDちゃんの表情を永久保存しようとカメラを向けたが、何回撮影しても「眠そうなDちゃん」しか写らない。なんで……?
 野菜も美味しく、特に分厚く切ったレンコンを焼いたものが良い味だった。

熊本旅行記(4日目 水前寺成趣園など)に続く)
posted by 柳屋文芸堂 at 22:59| 旅行・お出かけ | 更新情報をチェックする

熊本旅行記(3日目 橙書店など)

熊本旅行記(2日目 熊本市)の続き)

2018年2月15日
 このホテルの食事は豪勢で、朝から茶わん蒸し付き! 納豆のたれの色が、だし汁のように淡い。福岡で食べたものと同じだ。九州の納豆はみなこうなのだろうか。

 午前中は部屋でのんびりし、私はこの旅行記のためのメモを書いた。旅行中は旅行そのものを楽しむのに忙しく、やったこと・あったことを記録するのは煩わしい。それでも旅に出るのは貴重な体験なので、毎回薄いメモ帳を用意し、小まめに開いて何かしら書いておくようにしている。詳しくない、雑なものでも、出来事を思い出す手がかりになる。

 昼は「大地のうどん」という店へ。どんぶりに載りきらない立派なごぼうの天ぷらが特長だ。



 ごぼうはささがきではなく太いものを薄切りにしており、噛むと甘みを感じる。

 会計を済ませて外に出ると、同じ店でうどんを食べていたおじさんに声をかけられた。埼玉から来たことを話したら、おすすめのラーメン屋を教えてくれた。旅行者にはうどんではなく熊本ラーメンを食べてもらいたいのかな……?

 その後、市電(路面電車)に乗り、村上春樹が朗読会をしたことで知られる「橙書店」に向かった。村上春樹が国内で読者と直接会うイベントを行うのは極めて珍しい。彼に選ばれた特別な本屋さんをぜひ見てみたかった。

↓さて、どこにあるでしょう?






 橙書店、という小さな表示のあるビルの階段を上がる。まさに隠れ家。一度気付かずに通り過ぎてしまい、道を戻ってどうにか見つけた。そんな場所にあるにもかかわらず、私たちが扉を開くと、先客がいた。後から別のお客も入ってきた。平日の昼間の本屋にしては賑わっている。

 ここの本の並び方は五十音順や出版社別ではない。ゆるいジャンル分けはあるが厳密ではなく「言葉の力を信じている、センスの良いお姉さんの部屋に忍び込んだ」ような気分になる。

 ここならではのものを買いたいと思いつつ、
「あれ、この本、アマゾンでは品切れだったのでは?」
 なんて理由で、前から知っている本を選びそうになる。私の読書に偶然の出会いは少なく、読もうと予定しているものを消化していくだけになりやすい。自分が敷いたレールから外れることが出来なくて、困ったものだ。

 詩集が多く並ぶ棚で見つけた「尾形亀之助」という人の本が気になった。江國香織の小説「ホリー・ガーデン」に出てくる詩が、この人のものではなかったか。
「ねえ、これ、果歩さんがつぶやく詩の作者じゃない?」
 果歩というのはホリー・ガーデンの主人公だ。Dちゃんも江國香織は好きで読んでいるが、今は自分の本選びに夢中で関心を示してくれない。私のスマホは文章書きに集中出来るよう、ブラウザが開けない設定になっている。検索して調べることも出来ない。

 さんざん悩んだが、作風がその日の気持ちとズレていたこともあり、尾形亀之助の本は買わなかった。

 本棚のあちこちにカフカの「城」があったのが面白かった。やはり熊本では「変身」や「審判」より「城」が親しまれやすいのか。

「僕は決まったよ」
 とDちゃんが言う。作者もタイトルも全く知らない外国文学だ。ちゃんと偶然の出会いを楽しんでいる!

 私は寺田寅彦の随筆にした。前から読みたいと思っていた作家なので「予定通り」ではあるのだけれど、これまでぴたっとくる本を見つけられなかった。橙書店にあった選集は「今まさに読みたい」感じが強くした。
 肉を食べたい日や豆腐を食べたい日があるように、今日は寺田寅彦を食べたい気分なのだろう。

 橙書店の後は、夏目漱石が住んでいた家に行くことにした。途中で寄ったコンビニに、60年代風の長髪のおじさんがいて、ムッシュかまやつが天国から戻ってきたのかと思った。

 夏目漱石は四年ちょっとの熊本滞在の間に、五回も引っ越しをした。私たちが訪れた内坪井旧居は、最後から二番目に住んだ家だ。



 以前は記念館として内部が公開されていたが、地震後は立ち入り禁止になっている。柵の外側から眺めていると、あっ! 漱石先生もこちらを見ている!





 からくり人形が窓辺に置かれ、見学者を出迎えてくれているのだ。柵には解説パネルが設置してあり、パンフレットも自由にもらえる。これを読んで、寺田寅彦が五高(現在の熊本大学)で夏目漱石と出会ったのを知った。おお、私は意図せず熊本ゆかりの本を買っていたのか。

 Dちゃんがスマホを見ながら言う。
「さっきの尾形亀之助、やっぱりホリー・ガーデンの人だったよ」
「えーっ!」
 せっかくの機会だったのだから、寺田寅彦と両方買えば良かった。後悔。

「橙書店、ちゃんと読める本が並んでる良い本屋さんだったね。普通の本屋でよくある『これもハズレ、これもハズレ』ってことがなくて」
 興味深い本ばかり集められた中から、今一番読みたいものを決めるのは、本当に楽しかった。ああいうセレクトショップ的な本屋さんが増えると良いんだけどなぁ。

熊本旅行記(3日目 鶴屋百貨店など)に続く)
posted by 柳屋文芸堂 at 21:11| 旅行・お出かけ | 更新情報をチェックする

2018年02月26日

熊本旅行記(2日目 熊本市)

熊本旅行記(2日目 阿蘇)の続き)

 バスの中でいきなり団子を食べた。変わり種も買ったが、普通のタイプ(どこにでもあるさつまいもに、黒いこしあん、白い餅)が一番美味しかった。
 バスは中国人客でほぼ満員。予約しなかったらまた乗れなかったかもしれない。こちらに来て熊本弁はほとんど聞いてないが、中国語はたっぷり聞いた。

 阿蘇の店やホテルで働く人たちは、みな同じ独特のイントネーションで話していた。きっと親しい人に対しては熊本弁を使うのだろう。語尾や文法は完全に標準語だった。

 阿蘇から熊本市中心部まで約二時間。熊本城の前にあるホテルにチェックインし、味処「お川」へ。こざっぱりした小料理屋だ。
 ここで「一文字ぐるぐる」を食べることが出来て感激した。



 熊本名物の酒のつまみで、茹でた青ネギをぐるぐる巻いて結ったもの。酢みそがかけてある。
 何故わざわざこんな形にするのか、面倒だろうに、と思っていたら、
「結わうことで歯応えを出しているんです」
 と店主のおじさんが教えてくれた。なるほど確かに、巻かれた部分を噛むとコリッとする。ぐるぐるするひと手間が、青ネギを青ネギ以上の素敵な何かにしている。

 メニューに「山するめ」という見慣れない単語がある。干したたけのこをこう呼ぶのだという。店のおばさんが実物を見せてくれた。茶色く透明感があり、見た目がスルメに似ている。山するめの入ったおひたしを食べると、身が締まっていて、生のたけのことは歯触りが違う。

 高野豆腐やがんもどきなど、あれこれ頼んだが、どれもだしが利いており、それぞれの素材に合った味付けがされていて、Dちゃんも喜んでいた。なすの煮物が特に美味しかった。

 店主のおじさんは熊本城の写真をくれた。地震前の勇姿ではなく、修復中で足場の組まれた姿を写しているのが、熊本への愛を感じた。
 おばさんの熊本愛もすごくて、Dちゃんはしらすご飯を頼んだのに、
「熊本に来たならこれを食べて欲しい」
 と、熊本でしか食べられない「御飯の友」というふりかけ付きの白米に変更させられていた。

 料理は文句なしに美味しい。でもおじさんとおばさんの個性が強めなので、割と人を選ぶ店かもしれない。私は勉強になったし、良い思い出になったけれど。

 このお店でも熊本弁は聞けなかった。あのおじさんとおばさん、私たちがいなくなった途端に、熊本弁で話し始めるのだろうか……

 羽田を出発したのは昨日なのに、妙に遠く感じられ、もっと長く熊本にいるような気がする。見たことのない風景を沢山見て、初めてのものを色々食べて、普段の何倍も脳の記憶領域を使ったのかもしれない。「歳を取ると時の経つのが早くなる」と言われるのは、変わり映えのしない毎日を送りがちになり、記憶が残らなくなるためではないか。

 思い出の量が、時間の感覚を作る。楽しいことを数多く経験すれば、年齢に関係なく、時間は充分長くなる。

熊本旅行記(3日目 橙書店など)に続く)
posted by 柳屋文芸堂 at 23:37| 旅行・お出かけ | 更新情報をチェックする