2017年09月21日

サンダル王

 ちょっとした夏の思い出。
 駅のエスカレーターに乗ったら、動かない。ん? 動いてない。
 人が乗ったら動くというタイプのものもあるがそれでもない。

 仕方ないので普通の階段のように上っていったら、原因が分かった。
 段の間にサンダルが挟まり、まっすぐ立っていた。

私「ということがあって」
D「サンダルを抜いて直そうとする人はいなかったの?」
私「いや、力に覚えのある者はみな抜こうとするんだけどさ、抜けなくて」
D「このサンダルを抜いた者はサンダル王になるであろう!」

 すぐそばに片足だけサンダルを履いているお兄さんが佇んでおり、呼ばれた駅員さんが機械をいじって、サンダルもエスカレーターも元通りになりました。
 ケガがなかったようで何より。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 00:40| 与太話 | 更新情報をチェックする

2017年09月17日

文学フリマ大阪のお知らせ

 らしさんの本の感想を間に合わせなきゃ、ということばかり考えていて、自分の本が文学フリマ大阪に参加することをすっかり忘れていました。援護射撃頑張りますとか言ってたのに、ごめん、まりもさん……

 参加する本は人形小説アンソロジー「ヒトガタリ」

ヒトガタリ表紙.jpg

 「ヒトガタリ」についてのツイートまとめはこちら
 尼崎文学だらけでいただいた推薦文はこちら

 B-51(ブース名:a piacere 執筆者の一人であるまりもさんのサークル)で頒布されますのでよろしくお願いします〜!

 a piacereさんでは、
「空想のまちアンソロジー ぼくたちのみたそらはきっとつながっている」
 も買えるそうです。私、この本大好きなんですよ!!
 去年の尼崎文学だらけに出した推薦文を引用しますね。

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 この本の中には沢山の町が出てきて、とても全ては語れないので、一番大好きな「音町」を紹介します。でもこれ、絶対ネタバレしちゃいけない話なんですよ。見事な結末を持ったストーリーを、結末を隠して説明する。出来るかな(ドキドキ)
 まりもさんの「楢の薫り、楓の音」という作品。本の最初に収録されています。

 楽器の製作を生業とする「音町」 楽器職人であるエレンは「酒町」の人々のためにバイオリンを作っている。音町の人々と違って、酒町の人たちは楽器を大事にしない。外で演奏したり、上にお酒をひっくり返したり。そして酒町の人が求める音色は、音町のそれとはずいぶん違っているらしい。
 他の町に行くことは難しいので、彼らの音楽を聴くことは出来ない。楽器を修理する時の注文や、音町と酒町を行き来する運び人の話から、ぼんやりと酒町の音楽が浮かび上がってくる。
 賑やかに酒を飲みながら、楽しく早いテンポで踊るのにぴったりな。

 美しく上品な音楽こそ素晴らしいと信じている音町の人々は、酒町の人々をあまり良く思っていない。それでもエレンは酒町の人々と音楽に惹かれている。酒町の仕事なんてやめるべきだという忠告も、プロポーズも断って、酒町のためのバイオリンを作り続ける。そして。
 思い出すだけで涙がじんわりにじんでくる、あの結末。
 決して悲しみの涙ではない、ということくらいは伝えても良いだろう。

 直接会うことの出来ない人々を思い、触れることの出来ない何かに憧れる。
「まるで私たちみたい」
 そんな風に思いませんか?
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 発売からずいぶん時間が経っているのでもう少し書いてしまうと(ネタバレはしないのでご安心を)
 「音町」で鳴っているのはクラシック音楽(例えばこんな感じ)



 「酒町」で鳴っているのは民族音楽(例えばこんな感じ)



 ではないかと思うのです。
 それぞれが強い、決定的に異なる美意識を持っている音楽であること、分かりますよね。
 私はクラシックも民族音楽も大好きで、両方の魅力を知っているから、そして遠い文化に憧れる気持ちがいつもあるから、「楢の薫り、楓の音」を読み返すたびに泣いてしまうのです。

 9月18日(月祝)に堺市産業振興センターで開催される文学フリマ大阪に行く方は、ぜひB-51(ブース名:a piacere)へ!
 台風が近付いていて心配ですが、楽しんできてくださいね♪
 
posted by 柳屋文芸堂 at 23:36| 同人活動 | 更新情報をチェックする

らし「嘘の町を出ていく」感想

 この本、届いてすぐに読み終えたのですが「好き過ぎて感想書けない状態」になってしまって大変でした。多くの人にこの物語の素晴らしさを伝えたい。それなのに、感激が強過ぎて、上手く言葉を紡げない。
 明日の文学フリマ大阪でも頒布されるようなので、頑張って紹介してみますね。

 嘘の町「ペテンブルク」で、時計技師の青年ぺトレは、時計塔で踊るからくり人形シアーシャに恋をする。
 嘘の町とは何か?
 そんな、私が説明出来る訳ないじゃないですか!
 読んでみればありありと分かります。
「本を開いたら、あなたも嘘の町に行くことになる」
 と言った方が良いかもしれない。

 まずこのシアーシャが超絶キュートなのですよ。
 からくり人形が生きていることに驚くペトレに、シアーシャはこう返す。

「しかたがないじゃない。いるわけないっていわれても、わたしはここにいるんだもの」

 圧倒的な存在感。いるんです!

 ぺトレは何故ペテンブルクにいるのか? 彼が背負っている深い悲しみ。
 シアーシャはいつも明るいが、時計塔から出て自由に歩き回ることを夢見ている。
 彼らが惹かれ合う様子の描写が素敵。

「時計塔で出会ったふたりの気持ちも、文字盤を走る二本の針と同じように、刻一刻と、交差し重なる瞬間へと向かいはじめていた」

 そして二人はどうなるか?
 うわ、無理だ。ここから先はネタバレになってしまう。
 そこは嘘の町で、でもその恋は紛れもなく本物だった、ということしか私の口からは言えない。
 恋する二人の会話、特にシアーシャのセリフはどれもこれも本当に可愛らしい。

 この話はフィクションであり、フィクションについての話だ。
 つまり「物語とは何か」の話。
 嘘の話に過ぎない物語というものが、読者に何を与えてくれるか。
 それがどれほど大切なものであるか。

 読み進めるにつれて、
「この話、どうやって終わらせるのだろう」
 というドキドキが大きくなっていった。
 ハッピーエンドもバッドエンドも簡単に想像出来る。

 らしさんが選んだ結末に、私はうわー! と叫んだ。
 私の浅はかな予想などはるかに上回り、美しく、深い真理をたたえ、
「形のない、けれども確実に存在する何か」
 は読者に手渡される。

 9月18日(月祝)に堺市産業振興センターで開催される文学フリマ大阪のB-39(ブース名:おとといあさって)で買えるようですので、行く方はぜひ!!
 WEBカタログ(こちら)で表紙など詳細が見られます。
 こんな私の暑苦しい感想などさらっと忘れて、古いお洒落な外国映画を見るような気分で楽しんで欲しいです。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 17:51| 読書 | 更新情報をチェックする

同人誌の印刷冊数の決め方

 私はこんな風にしているよというだけの話です。
 まず「一度の同人誌即売会で売れる冊数の平均」を出します(本の種類ごとではなく全体で)
 1回目5冊、2回目10冊、3回目15冊、だったら平均は10冊。

 次に新刊を出す間隔はどれくらいか考えます。
 同人誌即売会に出るたびに必ず新刊を用意しているか。
 ここでは「毎回新刊を出すのは難しい、2回に1回くらい」ということにします。

 在庫は同人誌即売会のたびに10冊ずつ減ってゆき、2回同人誌即売会に出ると新刊の分が増える。
 つまり新刊を20冊にすれば在庫の増減はない。
 同人誌即売会で売れる冊数の平均(10冊)×新刊を出す間隔(2回)=新刊の印刷冊数(20冊)
 30冊刷れば在庫は増えてゆき、10冊刷れば在庫は減ってゆく。

 もちろんこれは目安にしかならないことで、まず同人誌即売会で売れる冊数は変化する。
 新刊を出す間隔もいつも同じとは限らない。
 売れ行きの良い本もあれば悪い本もある。

 ただ、私が一番気を付けているのは、
「印刷所の料金表だけを見て印刷冊数を決めない」
 ということ。

 印刷冊数を増やした方が1冊あたりの料金が安くなるので、どうしても冊数を多くしがち。
 在庫を減らそうと同人誌即売会への参加が増えると、まあ楽しいから良いのだけど、参加費って交通費なども含めてけっこう馬鹿にならない。

 同人誌即売会で動くお金というと、印刷代と販売単価が話題になることが多いけれど、同人活動をトータルで見て、無理のないよう楽しんでいけたらいいなと思っています。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 02:13| 同人活動 | 更新情報をチェックする

2017年09月07日

映画「秒速5センチメートル」感想



 作中で少年から大人になってゆく貴樹についての3つの物語。

 第1話「桜花抄」は、中学生の貴樹が好きな女の子に会いに、東京から栃木まで行く話。
 その子のことが大好きで、会いたくて、思いは胸にぱんぱんに膨らんで、でも約束の日、折悪しく関東は大雪に。
 遅れる電車。止まる電車。ずいぶん来たと思っても久喜駅で、まだそこ埼玉だよ!!
 栃木が冥王星みたいに遠く感じられ、数分が数時間に伸びてゆく。新海マジック。

 新海監督は「距離」と「時間」と「思い」の描き方が、本当に上手い。
 時速200キロメートルの乗り物と、時速100キロメートルの乗り物、1時間後に着いている場所は100キロメートル違うのだけれど、乗っている人間にとっては「1時間移動した場所」という感覚が最も強く残る。
 その1時間も、仲間とわいわい楽しくしていればあっという間だろうし、好きな人を寒い中で待たせているとなれば(私も経験がある)1分1秒が苦行のように体に刺さる。

 東京の中学生にとっての、栃木の遠さ。
 雪でダイヤが乱れた電車の不確かな速度。
 好きな人に会いたい気持ち。好きな人を待たせている痛み。

 観ている側も貴樹と共に、歪む距離、延びる時間、膨らむ思いをまざまざと体験することになる。
 切ない! 切ないよ!!

 第2話「コスモナウト」は高校生の貴樹に片思いする花苗のお話。
 貴樹はいつも栃木の女の子のことを考えているので、花苗の恋は上手くいかない。
 しかしそれ以上に、花苗が恋だけではなく「自分の進路も決められない」という部分が非常に切実で良かった。

 世の中のことも、自分のことも全然分からないのに、大人たちは決断しろと迫る。
 あやふやな今の自分の決めたことが、自分の人生を方向付けてしまうことを知っている。
 その責任の重さ。どこにいても心にのしかかる不安。
 高校時代の苦しさが鮮やかに蘇るし、この辛さはどの時代の高校生も変わらず味わうものだろう。

 恋と進路で悩んで暗い話になるかと思いきや、舞台が鹿児島県の種子島で、花苗はサーフィンをするから画面は明るく、これから美しく咲く花のつぼみのような前向きさが感じられた。

 第3話「秒速5センチメートル」は大人になった貴樹の話。
 栃木の女の子とは途中で上手くいかなくなってしまったようで、しかし他の女性をきちんと愛することも出来ない。
 東京で忙しく働きながら、ずっと誰かを探している。

 主題歌はみんな大好き、山崎まさよし「One more time, One more chance」
 この曲で探されている人はもう亡くなっていると私は考えているのだけど、相手は生きている、でも自分のものにはならない、というのは亡くなっているよりしんどいことなのかもしれない。
 会えないことを死のせいに出来ない。
 自分の間違いや未熟さを常に突きつけられる。

 「君の名は。」はこの第3話で描かれる喪失を救済するような話なので、古くからのファンが叫び声を上げた理由がよく分かった。
 「秒速5センチメートル」の方が現実的。
 でも人によるよね。私の人生は割と「君の名は。」に近いと思う。
 運命の人を見逃さなかった。
 「秒速5センチメートル」になっちゃった人は、来世に期待だ。
 まだ前前世なんだよ、きっと。

 新海監督作品の私小説的な部分、本当に素晴らしいと思う。
 「君の名は。」の脇役テッシーに説得力があるのは、それまでの「思春期描写の積み上げ」があってのことなんだなと。

 あと新海誠が色彩設計をすると、画面が本当に綺麗。
 今後、どうしても大きなプロジェクトになって、新海誠が色彩設計を全部やる訳にはいかなくなるだろう(「君の名は。」では別の人が担当している)
 その点でも貴重な作品だと思う。

 青春の甘酸っぱさ、切なさ、苦しさを思い出したくなったらぜひどうぞ。
 
posted by 柳屋文芸堂 at 12:24| 映画・映像 | 更新情報をチェックする